犬吠埼

銚子にある犬吠埼灯台でのこと。
Yさんという女性が家族と一緒にここを訪れた
家族は灯台の上に登りたいと言いだしたがYさんは高所恐怖症なので、彼女を残して夫と二人の娘が灯台に入っていった。
五分位経って灯台の上に三人が姿を表し、Yさんは見上げながら手を振った。
しかし三人の様子が少しおかしいように見える。
地上のYさんが見えているのかいないのか、こちらを見ているのは間違いないものの、Yさん以外の何か別の物に気を取られているようだった。
何か変わったものでもあるのだろうか、とYさんは辺りを見回したが、疎らな観光客の他は駐車場と建物と海くらいしかない。
一体なんだろう、と不思議に思っているうちに灯台から三人が出てきた。
すると夫も娘も何やら慌てた様子で、早く行こうと言う。
Yさんは事態がさっぱり飲み込めないながらも促されるままに車に乗り込んだ。
ねえ、どうしたの?
走りだした車の中でYさんが尋ねると後部座席の娘が言う。
「お母さん、やっぱり何も見えてなかったの?」
娘たちの話によると、こういうことがあったという。
灯台の上に出て下を見下ろすと、すぐにYさんの姿が見えた。
しかし彼女が立っているその周りに奇妙なものも見える。
Yさんのいる灯台の前庭を、何か丸いものがすごいスピードで動き回っている。
その何かはタライくらいの大きさで白っぽい色と平たい形をしており、ときどき日光を反射してキラッと輝いた。
Yさんをはじめ地上にいる人は誰一人それが見えない様子だが、そんな人々の間をその物体は滑るように行ったり来たりしていた。
それが何なのか、全く見当がつかない。
あんな変なものがいる所にお母さんをいさせるわけにはいかない!と、三人は景色もろくに見ずに急いで降りてきた。
降りてみると上から見えたあの白いものの姿はなくなっていたが、もしかするとただ見えないだけで、まだ周りを動き回っているのかもしれない。
とにかくここから離れなければ、と急いで灯台を出発したのだという。