ゆで卵

三重の海での話。
高校生三人で入江に釣りに行った。
しばし雑談などしながら並んで糸を垂らしていたが、なぜか一向に魚が食いついてこない。
いつ行ってもそれなりに釣果があるポイントだったので、日が悪いのかと思いながらももう少し粘ってみることにした。
すると少しして、三人の釣り糸に次々と、ほとんど同時に引きがあった。
しかしそれまで経験したことのないほどの強い引きで、あっという間に三本の糸は相次いで切れてしまった。
折角の大物らしき手応えだったのに……。
がっかりしながら仕掛けを付け直そうとしていると、三人のうちの一人が声を上げて海を指さした。
あとの二人が目をやると、三人がいる岩場から二十メートルほど先の海面に何か丸いものが浮かんでいる。
真っ白くてつるりとしたそれは、まるで殻をむいたゆで卵のようだった。
ただ、大きさはおそらくタライくらいはあったという。
わずかに引き波が見えることから、ゆっくりと沖へ向かって進んでいくのがわかる。
何だあれ?
もっと近くで見たいと思ったものの、近くに舟などない。
とりあえず入江の端の岬まで走って追いかけると、ちょうどゆで卵は入江を出てゆくところだった。
岬は先程いた岩場より少し高くなっている上に、入江の出口が狭くなっているので、先程よりは近くでそれを見ることができた。
三人の見つめる十メートルほど先を横切って行くそれは、やはり白くて楕円形をしており、馬鹿でっかいゆで卵にしか見えない。
しかしそれはヒレも尾もなさそうに見えるのに、波を無視するように沖を目指してするすると泳いでいく。
入江を出てからは、左右にくり返し方向を変えながらジグザグに進んでいく。
三人が呆然と見守る中を、意外に速いスピードで沖の方へと消えていったという。