窓の女

Mさんが高校三年生の時のことだという。
その日は朝から弱い雨が降っていたが、午前の授業を受けている間に徐々に勢いが強くなってきた。
四時限目には土砂降りの雨が横殴りの風に煽られて窓に音を立てて当たり、一時は先生の声も聞き取りにくいくらいだった。
しかし昼休みになると雲に切れ間が見え始め、五時限目が終わる頃にはすっかり雨も風も収まってしまった。
帰る前に雨が上がってよかった、と思いながらMさんが六時限目の用意をしていると、急に教室の中がざわつきだした。
クラスメートたちが窓の方を見ている。
Mさんもそちらに目をやると、教室の窓は先程の雨のせいで一面に水滴が付いている。
それが、一番後ろの窓だけは妙に大きく水が付いていた。それも何やら縦に長く、人間の上半身そっくりの形をしている。
まるで窓のむこうに誰かが立っていて、その映った影が水になったようだ。
体のラインから、何となく女性の姿のように見える。
クラスメートの一人がその人の形の部分を触ってみようと窓を開けた途端、一気にそれは流れ落ちてしまった。
あとでよく確かめてみたものの、その窓には別に人型の油膜や汚れなど付いていなかったという。
そんなことがあったのはその一度きりだった。