山老

ある大学の登山部メンバーが夏の箱根を回ったときの話。
登山というよりはハイキングコースを辿るのが主な行程で、天候にも恵まれ、順調に予定を消化していった。
道中、箱根の旧街道に入った時のことだという。
鬱蒼とした杉林に挟まれた道を進んだ一行は、道端に腰を下ろして休憩した。
午後二時頃だったという。
すると、進行方向からさかんに木がザワザワ揺れている音が聞こえてきた。
一同がそちらに目をやると、道の右側から突然、見上げるような大きな影が出てきた。
野良着姿の老婆だったという。
しかし大きい。道の両側に並んでいる杉の木より少し小さいくらいだったというから、十メートルほどだろうか。
そんな巨大な老婆が木々の間からぬっと現れ、一またぎで道を横切り、向かい側の木々の中へと入っていった。
あっと驚いた一同が急いでその後を追ったものの、老婆はまるで木々の間に吸い込まれてしまったかのように消えていた。
ただ、辺りにはなぜか栗の花のような臭いが漂っていたのだという。