土顔

Kさんが小学五年生の時の話。
春休みに親戚の家に遊びに行った。
親戚の家にはKさんと歳がそれほど離れていない従姉妹が二人いて、彼女たちと一緒に外に遊びに出かけた。
田舎で、家の周りには田んぼや畑が広がっており、Kさんたちは網を持ってメダカをすくったり、畦道でツクシを摘んだりした。
すると、ある時小さい方の従妹が田んぼの中を見つめて指さした。
そちらをのぞき込むと、田んぼには水が溜まっている。
と言っても単に雨が降ってできた小さな水たまり程度だったが、従妹が指さしているのはその水たまりの中だった。
「人がいる」
従妹がそういうので目を凝らすと、確かに水たまりの水面のすぐ下に、仰向けに人の顔が見えた。
周りの土と同じ色をした顔で、髪の毛などは見えないので男なのか女なのかもよくわからなかったが、大人の顔のように見えた。
土色をした顔の中に、目だけが白く光っている。
間違いなく人の顔だった。
しかし、水たまりの深さはせいぜい10センチ程度で、とても人が潜ることなどできそうにない。
仮にそれが人だとしても、首から下は全部土に埋まっているはずだった。
どうも只事ではなさそうだ、とKさんは身構えたのだが、幼い従妹は面白がって足元にあった小石を水たまりめがけて投げ込んだ。
水しぶきが上がり、泥が舞い上がって水が濁り、やがて再び水が澄んできた時には、もう先ほどの顔など影も形もなくなっていた。


そのことと関係あるかどうかは分からないが、Kさんと従姉妹たちはその翌日から高熱を出して数日間寝込んだという。