ひったくりの腕

ある人が夕方に外出した時の話。
夕食を食べに行こうと街中を一人で歩いていると、その数メートル前方にも一人の女性が同じくらいの速度で同じ方向に歩いていた。
なんとなくその後ろ姿を見ながら歩いていたところ、突然横からその女性のバッグを掴んで引っ張る者があった。
ひったくりの姿はちょうど道端の看板の陰になっており、後ろからではその腕しか見えない。
女性を助けようと、慌てて駆け寄ってその横から伸びた腕の手首をグッと掴んだ。
掴んだその感触はひんやりと冷たかったという。
腕を掴んだまま看板の陰に目をやると、そこには誰の姿もなかった。
え?じゃあこの腕は何だ?
掴んだ腕の元は、直接看板の側面に繋がっていた。
看板から腕が生えている。
予想外の有様に驚き、思わず掴んでいた手首を離したところ、腕はあっという間に看板の中に引っ込んでしまった。
バッグを腕から取り返した女性は、喉の奥から変な声を漏らすと、一目散に逃げていった。
どうしてもその腕のことが気になったので看板の周りをよく見てみたが、周りに電飾が付いただけの何の変哲もない飲み屋の立て看板だったという。