道案内

Kさんが学生時代の友人の家に遊びに行く約束をした。
以前にも一度訪ねたことがあるので道はわかるつもりだったが、途中で道に迷ってしまった。
その頃はスマートフォンを持っていなかったので地図を検索することもできない。
とりあえず携帯電話で友人に連絡しようと考え、登録してある番号にかけるとすぐに友人が出た。
友人はそのまま電話で道案内するからその通りに来ればいい、という。
その場から見えているものを友人に伝えながら、友人が言う通りの道を辿っていった。
すると五分ほどで友人のアパートが見える所までやってきた。
礼を言って電話を切り、アパートへ向かって歩き出してすぐに電話が鳴った。
今しがた電話を切ったばかりの友人からである。
出てみると「遅いぞ。今どこ?」という。
――いや、ついさっきお前のアパートが見えたって言ったろ。
そうKさんが言うと、友人は納得の行かない様子だった。
「道案内なんかしてないぞ、俺」
友人はそう言うが、そんなはずはない。
――確かに案内してもらったからここまで来れたんじゃないか。
Kさんは友人宅に着いてから携帯電話の通話履歴を友人に見せようとした。
しかし友人に案内してもらっていたはずの時刻には、登録されていない見知らぬ番号にかけていたことになっていた。
話していた相手は確かに友人だったはずだし、登録していた番号にかけたのだから別の番号にかかることはないはずだった。
全くつじつまが合わない。
友人は面白がって、その見知らぬ番号に自分の電話からかけてみた。
しかし聞こえてきたのは、おかけになった電話番号は現在使われておりません、というアナウンスだけだったという。