もう一人のメンバー

Hさんは大学生のとき、ダンスサークルに所属していた。
サークルと言っても元々あったものではなく、Hさんが友人たちと立ち上げたものである。
結成以後は新規メンバーも募集していなかったので、メンバーもごく親しい友人たちのみで構成されていた。
練習は夜中に大学構内の広場で行っていたのだが、ある晩、偶々練習を見に来ていた友人からこんな質問をされた。
「新しく入った子、どこの学部?」
誰の話をしているのか、全くわからない。新しいメンバーなど入っていないし、その日の練習も間違いなくいつもの顔ぶれしかいなかった。
何かの間違いじゃないの?とHさんが聞き返すと、そんなはずはない、一緒に踊ってた青いTシャツの子がいたじゃない、と友人は言う。
その日の練習に青いTシャツを着てきたメンバーはいなかったので、やはり何かの勘違いだろう、とHさんは考えた。
しかしそれからも何度か、練習中に知らないメンバーが加わっている、という話を聞かされた。
いずれの場合も踊っているメンバー自身はその姿を見ておらず、サークル外の見物人から指摘されるだけだった。
そう何度も同様のことが重なると、本当にそんな謎のメンバーが存在するようにも思えてきて、流石に不気味に思えた。


そんな中で、隣町で開かれる商店街のイベントでダンスを披露する機会があった。
一生懸命練習した成果が出て、本番もなかなか調子よく踊ることができた。
Hさんは友人に頼んで本番の様子をビデオ撮影してもらったので、その日の晩、メンバーの一人の家に集まって、打ち上げがてら上映会をすることにした。
ビデオには、幾分緊張した面持ちのHさんたちがそれでも何とか練習通りに息のあった動きをしている様子が撮されていた。
……しかし、なぜかちょっとした拍子にメンバーの姿がぶれて見えるような瞬間がある。
カメラの調子が悪かったのか、と思ったが、ぶれて見えているのは踊っているメンバーの一部だけで、背景や観衆は綺麗に見えている。
何これ?
目を凝らしてよく見ようとするうちに、実はそれはぶれて見えているのではないことに気が付いた。
ぶれているように見えたそれは、実際にはメンバーの後ろに重なってもう一人、誰かが同じ動きで踊っているのである。
しかしメンバーは横一列に並んで踊っているので、後ろに下がって重なるように踊っていた者などいなかったはずだ。
これは誰?もしかして、これが時々練習に交じっていた「もう一人のメンバー」なの?
その人影を何とかはっきり見てやろうと画面に目を凝らしているうちに、演技が終わった。
画面の中のHさんたちが拍手を受けながら一列に並んでお辞儀をした時、その後ろに立っていた人物の上半身がはっきりと見えた。
無表情のまま直立しているその人物の顔は、どう見てもHさんとしか思えなかった。
お辞儀をしている本人と合わせて、画面にHさんが二人いたのだという。