二階の窓

Hさんが中学生の頃まで、母方の祖母が隣町に一人で住んでいた。
祖母に懐いていたHさんは時々自転車で祖母に会いに行き、学校であったことや面白かったことなどを話していたり、庭の草抜きをしたりしていた。
ある日、祖母の家に行った時のこと。
家の前で自転車を停めると、二階の窓がガラッと開く音がした。
お祖母ちゃんだ、と視線を上げると窓からこちらを覗いているのは知らない女の人だった。
誰?と一瞬固まったHさんに、その女性は無表情のままペコリと頭を下げて窓の奥に消えた。
お祖母ちゃんの知り合いだろうか、と思いながら玄関を開けると、ちょうど目の前の廊下に祖母がいた。
「今の女の人、誰?二階にいたの」
そうHさんが聞くと、祖母は怪訝な顔をする。
「二階になんか誰もいないよ」
そう答えた祖母と顔を見合わせると、用心のために箒を持って二階に上がっていった。
階段はひとつしかないし、降り口は玄関のところにしかないからまだその女は二階にいるはずなのだ。
しかし上がってみると誰の姿もないし、窓もすべて鍵がかかっている。
ただ、よく見てみると先程あの女が顔を出していた窓、その縁に溜まった埃に細い指の跡が付いていた。
祖母や母か誰かが付けたものかもしれないし、あの女とは関係ないかもしれないが、Hさんはそれがたまらなく嫌に思えてすぐに埃を拭きとった。


その後も何度か祖母の家に行った時に二階の窓が開く音を聞いたが、Hさんは決して見上げようとはしなかったという。