バレーボール

Tさんは高校生の時にバレー部に所属していた。
高校の体育館は天井付近の鉄骨がむき出しになっていて、時々高く上がったボールが鉄骨の隙間に挟まってしまうことがあった。
バレー部の顧問の先生が厳しい人で、そういうボールをそのままにしておくと激しく怒鳴る。
「道具を大事にせん奴は何やっても駄目なんだっ!」
そう言われても、高い天井に引っかかっているものは取るのが難しい。
脚立や竿を使って取るには位置が高すぎる。
上手く他のボールをぶつけることができれば一緒に落ちてくるのだが、真上に狙いをつけるのはそう簡単ではない。
ある日、やはり天井にボールがひとつ挟まってしまい、どうしても取れなかった。
Tさんたちも先生に起こられるのは嫌なので何とか落とそうとしたのだが、その日に限ってどうにも上手くいかない。
ボールを投げて命中させても、びくともしない。
たまたま顧問の先生が休みの日だったのでその日は怒鳴られる羽目にはならなかったが、翌日そうなるであろうことは予想できたので気が重かった。


実際、翌朝は先生がカンカンだった。
しかし事態はTさんたちが考えていたのとは少し違っていた。
体育館の天井には、なぜか何個もバレーボールが挟まっていたのである。
数えてみると十二個も鉄骨の隙間に引っかかっていた。
昨日の時点では確かに一個しか挟まっていなかったので、Tさんたちが帰ってから翌朝までの間に誰かがこんな悪戯をしたと考えられた。
だが、誰の仕業だというのか。
悪戯だとしても地味だし、嫌がらせとしてはバレー部を狙いすぎている。
とはいえ、十二個も引っかかったままでは練習に支障が出る。
とりあえずは朝練をするためにもボールはすぐに下ろす必要があった。
Tさんたちは先生の手前もあり、必死でボールをぶつけるもののなぜかボールは一向に落ちてこない。
結局十五分ほど頑張ってもひとつも取ることが出来なかったので、しかたなくそのままにして練習を始めることになった。
先生の機嫌は悪いままだったが、とりあえずは練習メニューをこなしてその日の朝練が終わった。
片付けを終えて一同が体育館を出ようとした時、天井のボールが突然ぼろぼろと落ちた。
あれほどボールをぶつけてもびくともしなかったのに、ひとりでに、ひとつ残らず落ちてきたという。