Hさんが小学四年生の時のことだったという。
両親が共働きだったHさんは、学校から帰るとまた中から玄関の鍵をかけて親の帰りを待つのが毎日のことだった。
その日も帰宅してから二階の自室で宿題をしていたところ、玄関が開く音が聞こえた。
鍵を持っているのはHさんと両親の三人だけである。
「大抵いつも帰りが早いのは母の方でしたから、その時も母が帰ってきたと思ったんですよね」
Hさんは母親を出迎えるために一階へ降りていったが、家の中は静まり返っていて誰の気配もない。
おかしいな、と思い玄関を確かめてみると、鍵は閉まったままだった。
「気のせいだったかな、と思ってまた部屋に戻ったんです」
少し経ってからトイレに行くために部屋を出ると、階下からテレビの音声が聞こえてきた。
誰か帰ってきていたのか。
玄関が開く音は聞いていないような気がしたが、気が付かなかっただけかもしれない。
テレビは一階の居間にある。
母がいるのだろう、と思ったHさんは居間を覗いてみた。
中には誰の姿もない。
ただ、テレビだけがドラマの再放送かなにかを映し続けている。
「その時初めてゾッとしました」
念の為に家の中を探しまわったが、母どころか誰もいない。
玄関も先程同様に施錠されたままである。
もうすっかり怖くなったHさんは、一応テレビだけは電源を切って自室に戻り、布団をかぶってじっと両親の帰りを待った。
程なくして、今度は本当に母親が帰ってきた。
階下から呼ぶ母親の声を聞いて安心したHさんが降りていくと、なぜか母に叱られた。
「何であんなに散らかしっぱなしなの？片づけなさい！」
何のことだかわからないHさんが聞き返すと、母親は居間を指さした。
見てみると、居間の畳一面に藁くずのようなものがたくさん散らばっている。
テレビも明々と点いていたという。
