かくれんぼ

Sさんが小学四年生の時のことだという。
日曜日に同級生のF君の家に遊びに行った。
同級生が五人ほど一度に訪ねたのだが、裕福なF君の家は庭も部屋も広く、遊び場所には困らなかった。
トランプなどをしてしばらくは大人しく過ごしていたSさんたちだったが、やがて飽きてきたのか、友達の一人が「かくれんぼしよう」と言い出した。
SさんはF君の家族に迷惑がかかるんじゃないか、と思ったが、F君自身も面白がって「うん、やろう」と乗り気なので気にしない事にした。
じゃんけんで最初に鬼をやることになったのがF君で、流石に家のことはF君が一番良く知っているため、すぐにみんな見つけられてしまった。
しかもSさんは一番最初に見つかってしまったので、次の鬼になった。
F君の部屋も八畳くらいの広さがあったが、家そのものも大きく、部屋数が多い。
それらを一人でひとつひとつ見て回るのは、何だか探検をしているようで胸がわくわくした。
二階の廊下の突き当たりにある部屋を開けると、そこは壁が大きな本棚になっている部屋で、どうやら書斎のようだった。
本棚になっていない方の壁は一面ガラス戸が嵌っていて、その外はバルコニーか何かのようになっている。
そのガラス戸の端に巻いてあるカーテンの下半分が、不自然に膨らんでいるのがわかった。
――誰かがあそこに隠れている。
ピンと来たSさんは、隠れている子を驚かせてやろうと思いつき、ゆっくりと足音を立てないようにカーテンに近づいていった。
近づいてみると、やはりカーテンの膨らみ方がちょうど子ども一人分くらいの大きさになっている。
誰かがそこにいることを確信したSさんは、いきなり大声を出して驚かせてやろう、と息を吸い込んで、そこであることに気が付いた。
カーテンの下、床との僅かな隙間に赤いものが少し見えている。
隠れている子の靴下だな、と思って視線を上げたSさんは、次の瞬間に何か違和感を抱いて、もう一度それを見た。
足などではなかった。
それは、真っ赤な色の手だった。
指をまっすぐ揃えた手がふたつ、床にぺたりと置かれている。
床に着いているのは手だけで、足はどこにも見えない。
――この手の持ち主は、この中でどんな姿勢をしているんだろう?
皺が何本も刻まれたその手は、とても小学生のものとは思えなかったし作り物にも見えなかった。
しかも手袋を着けているわけでもないのに、茹でた蟹のような真っ赤な色をしている。
――そもそも、これは誰なんだろう?
カーテンの膨らみがじっと動かないのも気味が悪かった。
Sさんはそのまま音を立てないようにゆっくり部屋を出て、他の部屋に向かった。


友達は、全員あの書斎以外から見つかった。
それ以来SさんはF君の家に遊びに行くことがなかったという。