夕焼け

ある山間の中学校のグラウンドで、放課後に野球部が練習をしていた。
その日は朝からずっと快晴で、夕方には綺麗な夕焼けが見えていた。
顧問の先生は出張で不在だったが、みな真面目に練習に打ち込んでいたという。
しかし突然数人の部員が、校舎越しに見える山を指さして声を上げた。
彼らの声に釣られて他の部員たちもそちらを見上げると、山の形がいつもとは明確に違っている。
夕焼けに照らされて真っ赤に染まった山の上部が、半円形に大きく抉れている。
まるで鋏か何かで切り取ったかのように、綺麗に削れていたという。
いつの間にあんなことになっていたのだろうか。
その瞬間まで、山がそんなことになっているとはその場の誰もが気付いていなかった。
山をあんなに削る工事の話など誰も聞いていなかったし、仮に工事だとしても誰も気付かない間にあれほど進めることができるものだろうか。
みな釈然としないものを感じてはいたが、それ以上見ていても仕方がないので練習に戻った。
日が落ちて、練習を終えた彼らは暗い中を帰宅した。
真っ暗な帰り道ではもう先ほどの山は見えなくなっていた。


翌日、登校途中で野球部員たちが見たものは、いつも通りの形をした山だった。
どこも削れてなどいないし、山肌はいつもと同じように木々に覆われている。
一晩で埋め戻せるはずはないし、埋めたとしても木が元通り生えているのはおかしい。
野球部員たちは昨日見たものを先生や他の生徒に聞いて回ったが、他には誰も抉れた山など見てはいなかったという。