電話

Kさんという男性が転勤になり、支店長を任されることになったのだが、その支店が何やら曰くつきだったらしい。
三階建てのビルの一階が店舗で、二階が資材置き場として使われているのだが、どうもこの二階に誰かがいるような気がするのだという。
閉店後、アルバイトや他の社員が皆帰った後でKさんが一階でひとり事務仕事を片付けていると、上の階から話し声や足音が響いてくる。
誰も居ないはずなのにおかしい、と思って二階を見に行くが、明かりもついていないし誰の姿もない。
しかし再び一階に戻ると、やがて上から音が響いてくる。
実害はないし、ただ音が聞こえてくるだけのことなのでKさんは気にしない事にした。
無視できなかったのは、本部と電話をした時のことだったという。
これも閉店後のことで、打ち合わせのために本部のマネージャーに電話をかけた。
報告と相談を終え、電話を終えようとしたときである。
マネージャーから、こんな言葉が出た。
「あのさ、もう閉店したんだろ?なんで子供がいるの?誰かのお子さん?」
店内にはKさんともう一人の社員しかいない。
子供なんていませんよ、とKさんが答えると、マネージャーは続ける。
「いや、だって電話越しに子供の声が聞こえてるから。隠そうとしたって駄目だって」
それを聞いたKさんの背筋から、汗がどっと吹き出したという。
「本当にいないんです!ここには子供なんていないし、誰も喋ってないです!」
そうKさんが主張するが、マネージャーは信じてくれないばかりか、しまいにはからかわれていると思ったようで怒り出す始末だった。
Kさんは適当に電話を打ち切って、もう一人の社員と頷き合うと仕事を切り上げてすぐに帰ることにした。
翌日、神社に行って御札やお守り、塩を買ってきて店内に置いたり撒いたりしたが、それからもおかしなことは何度かあったという。