Oさんは高校生のとき、陸上部に所属していた。
ある日の放課後、いつものように学校のグラウンドで練習に励んでいたときである。
何となく足元がふらつくような気がして周りを見回すと、他の陸上部員たちも立ち止まって怪訝な顔をしている。
違和感の正体は地震だった。
屋外にいる時は地震も感じにくいが、その時は震度5弱程度と大きめの揺れで、はっきりと揺れを感じることができた。
揺れはすぐ収まったので一同もほっと一息ついたが、その直後のことである。
目の前にガシャガシャと何かが落ちてきた。
突然のことに慌てながらよく見てみると、そこには屋根瓦が五枚ほど落ちている。
今の地震で落ちたのか、と一瞬考えたものの、そんなはずがないのは明白だった。
陸上部が練習に使用しているグラウンドと校舎との間にはハンドボールのコートがあり、途中には球よけの高いネットも立っている。
そもそも校舎には瓦など使われていない。
校舎の反対側は川や田んぼにしか隣接していない。
つまり地震があろうがなかろうが、瓦が落ちてくるような建物がグラウンドの周りにないのである。
一体、この瓦はどこから落ちてきたのだろうか?
Oさんたちが拾い上げると、どの瓦もかなり古びていて、古いお寺か神社の屋根にでも使われていたようなものに見えた。
陸上部の顧問の先生に報告したところ「そんな汚い瓦どこで拾ってきたんだ?」と信じてもらえなかった。
仕方がないのでとりあえず瓦をグラウンドの隅に片付けておいて、また練習を再開した。
その瓦はOさんが卒業するまでずっとグラウンドの隅にあったが、今はどうなっているか知らないという。