話相手

Mさんが就職して間もない頃の話だという。
仕事帰りに、同期の同僚数人で呑み屋に繰り出した帰り道のことである。
最寄の駅に揃って歩いていたが、若さに任せて痛飲したためにみな足取りが怪しかった。
しばらく歩いた所でふと気がつくと、一緒に歩いていたはずの一人がいない。
どこかではぐれたかと思って見回すと、後方の路上で胡坐をかいているのが見えた。
酔っ払って座り込んでしまったようで、そのまま放って帰るわけにもいかない。
呼びかけながら近付いていくと、彼がなにやら大声で喋っているのがわかった。
「ああ、そうだよねうん。おれもそうだもん」
「わかるわかる。そうなんだよなあ。この前なんかさあ」
「まあ元気だしなって。そういうのが後で報われるってこともあるって」
どうやら誰かと会話しているようなのだが、相手は電柱の陰にいるのか、こちらからは見えない。
そのまま近付いていったMさん達だったが、しかしそこには同僚が一人で座っているだけだった。
あれ、誰と話してたんだ?
そう思ったMさんたちの目の前で、座っている同僚はまた大声で話し始めた。
「え?うん、今日はね、仕事仲間と飲んできた」
「え、今から?どうしようかな、明日も仕事だしさ」
「悪いけど……いや、だってしょうがないじゃんさ」
Mさんたちの酔いが一遍に醒めた。
目に見えない誰かと話している。何だか知らないがこれはまずい、と思った。
座り込んでいる同僚を慌てて助け起こす。
急に脇を掴まれて立たされた同僚はきょとんとした顔をしていたが、すぐに苦しみを訴えて、道端に腹の中のものを吐き出した。
すると、なぜか吐き出した中から十センチほどはあろうかというボルトが二本ほど転がりだした。
彼がいつ、そしてなぜそんなものを飲み込んでいたかは分からなかったが、念のためすぐに病院に連れていくことになった。
検査の結果、胃の中には更に三本ほど同様のボルトが入っていたという。