校内放送

ある中学校で、二年生のクラスの担任をしていたNという先生が欠勤した。
急に体調を崩して病院に行くとのことだった。
その日の昼休み。
給食の準備でざわつく教室に、スピーカーからの音声が響き渡った。
古い放送設備のせいか、いつになくはっきりしない声だったが、どうもN先生の声のようだ。
先生、来たんだ。でも何を言ってるんだ、これ?
「……ない。……から……です。……と……」
教室の皆が黙って耳を澄ましたものの、やはりよく聞こえない。
やがて放送が止んだ。結局、何の放送だったのか全くわからなかった。
――まあ、そのうちN先生が教室に来るだろうから、何て言っていたかはその時に聞けばいい。
そういうことになった。
そうして給食の時間が終わり、何人かが教室を出て行こうとした時、教頭先生がやって来た。
「みんな、落ち着いて聞いてください。N先生がつい先程、病院で息を引き取られました」
皆、ぽかんとした顔をした。
何言ってるんですか先生。
N先生、さっき放送で喋ってたじゃないですか。
生徒からそういう声が上がると、教頭先生は訝しげな顔をした。
「何かの間違いでしょう。君達には知らせていませんでしたが、N先生は今朝方倒れて、救急車で運ばれました。今日は学校には一度も来られていません」


その後他のクラスの生徒にその話をすると、そんな放送は聞いていないという。
どうやら、N先生のクラスだけにあの放送が流れたらしく、やはりあれはN先生の声だったのではないか、ということになった。


と、いうのが二十年前の出来事である。
今でも同窓会ではその時の話が出るという。
その度に、N先生があの放送で何を言いたかったのかを話し合っているものの、結論は出ていない。