馬鹿騒ぎ

写真が趣味のUさんは、連休を利用して撮影旅行に出かけた。
電車を乗り継いで、隣県の山奥の民宿に泊まり、周辺の山や史跡を撮りまくった。
投宿して二日目の夜のことである。
その日もあちこち歩き回ってだいぶ疲れていたので、翌日に備えて早々に布団に入った。
うとうとしてきたその時。
窓の外から、大歓声が響いてきた。
大勢の人々がそれほど遠くない辺りで一斉に叫んでいるような様子である。
更には太鼓の音も聞こえる。
何だこの馬鹿騒ぎは!?暴走族か!?
堪らずに跳ね起きたUさんは、カーテンの隙間越しに外の様子を窺った。
しかし真っ暗で、ほとんど何も見えない。遠くの山道の街灯がぽつりぽつりと浮かび上がっているばかりである。
運動会でもやっているような大声が聞こえているのに、誰かがそこにいるのかどうかも判別がつかない。
暴走族なら、ヘッドライトぐらい見えるはずだ。こんな暗闇の中でライトも点けずにバイクや車が走れるわけがない。
……そもそも、窓の外には何があった?どんな風景だった?
Uさんは日中の様子を思い出したが、そこは確か山の斜面がうねって続くばかりで、大勢の人々が夜中に集まるような所ではなかったはずだった。
じゃあ、この声は何なんだ?
もっとよく聞いてみようか、と思ったUさんが窓を開けたその瞬間、声はぴたりと止んだ。
あれだけやかましかったのが嘘のように、もう虫の声くらいしか聞こえてこない。
そよ風すら吹かない、静かな夜である。
大きな声が不意に止んだので、Uさんは拍子抜けして却って不安な気持ちになり、堪らなくなって部屋を出た。
階下では民宿のおかみさんがテレビを見ていたが、Uさんが青い顔をしているので心配そうに具合を尋ねてきた。
Uさんが今あったことを話して一体あの声は何なんですか、と聞くと、おかみさんは大きく頷いた。
ああ、たまにそういうことがあるんですよ。ここでは何も聞こえなかったんですけどね。どうも上の部屋でだけそういうのが聞こえるみたいで。
そう言われても何の事だか判らない。Uさんが聞き返すと、おかみさんは続けて言った。


この辺りねえ、ほら、大昔の戦場だったもんだから。戦国の。