灰色のスーツ

Tさんが高校生だった時の話。
休日に同級生の家に遊びに行った。
初めて訪ねたその家は二階建ての日本家屋だったのだが、その屋根に誰かが座っているのが見えた。
屋根の修繕でもしてるのか?と思ったが、よく見るとどうやら作業服姿ではない。灰色っぽいスーツを着た男のようだった。
この家の家族の誰かだろうか、と思いながら呼鈴を押すと、すぐに同級生が出てきた。
「あのさ、屋根の上に誰かいるんだけど」
そうTさんが言うと、同級生は首を傾げた。心当たりがないという。
もしかして泥棒か?と慌て半分に玄関から駆け出して屋根を見上げると、まだスーツの男は屋根に跨っている。
同級生が叫んだ。
「おい!あんた、そんな所で何してんだよ!?」
それを聞いていたかは定かでないが、スーツの男がぐらりと傾いた。
そしてそのまま瓦の上を転がって、こちら側にボロッと落ちてきた。
うわっ!
反射的に飛びのいたところ、男の姿は地面に衝突する直前にぱっと掻き消えてしまった。
テレビのスイッチを切ったかのような、唐突な消え方だったという。


Tさん達は数秒間顔を見合わせると、一目散に逃げ出した。