自動販売機

あるカップルが休日にドライブに出かけ、帰る頃にはすっかり暗くなっていた。
彼女の家の方角に続く国道を走っていた時のこと。
前後に他の車のライトも見えず、道はずっと緩やかなカーブを描く一本道で、制限速度を十キロ以上越えるスピードを出していた。
ふと前方に灯りが見える。
沿道の自動販売機かなと思ったものの、距離感というか、位置関係がどこか奇妙に見えた。
何となく気になってスピードを緩めながら進んでゆくと、確かにそれは自動販売機だったのだが、立っているのが真正面だった。
慌ててブレーキを踏んで何とか衝突せずに停まったが、なぜこんな道路のど真ん中に自動販売機が置かれているのか。
イライラしながら車を降りて、近くに寄ってよく見てみたが、特に変わったところのない缶飲料の自動販売機である。
前面に煌々と灯りが点き、ボタンの所には赤いランプが点滅している。
まったく誰がこんな所に置いたんだ、と首を捻っている所を背後から車が何台か追い越していった。
俺たちももう行こうか、こんなの放っておこう。
そう言って車に乗り込んで前方を見ると、たった今までそこにあったはずの自動販売機は、影も形もなかったという。