Oさんが子供の頃、夏休みに母親の実家に遊びに行った時の話。
母方の祖父は釣りが趣味で、Oさんも遊びに行ったときにはよく同行していた。
この時も祖父と一緒に釣りに行ったのだが、祖父が足を向けたのはそれまでOさんが連れて行ってもらったことのない場所だった。
葦の群生した河原で、周りにほとんど人影もない。
祖父と並んで座り、釣り糸を垂らすことしばし。
じっと見つめていた水面からふと視線を上げると、百メートルほど離れた対岸にも釣り人がいた。
Oさんたちと同じく、大人と子供の二人連れ。
子供の方は丁度Oさんと同じくらいの歳だろうか。
背格好も同じくらいに見える。おまけにOさんが被っているのと同じような色の野球帽さえ被っている。
そのあたりまで見て、何だか急に違和感を持った。
ずいぶんと自分に似ている。
というより、似過ぎではないか。
似た服装というよりは、同じ服に見える。
よく見れば、子供の隣に座っている大人のほうも祖父と同じような体格と服装をしている。
まるでOさん達を鏡に映したような具合だった。
帽子の陰になって二人とも顔はよく見えない。
何とも奇妙に思って隣の祖父を見ると、祖父もOさんを見て言った。
「お、気付いたか」
「何あれ?」
「よくわからん。ここに来るといつも俺に似たのが出よるもんで、二人だとどうなるかと思ってお前を連れてきたんだが」
やっぱり出たな、と言って祖父は笑った。


対岸の二人は結局Oさん達が帰るまでずっと、座ったままぴくりとも動かなかったという。