イヤホン

十五年ほど前の話。
Fさんはある時、公園で開かれたフリーマーケットに行った。いくつか気に入ったものを買ったが、その中に銀色のイヤホンがあった。
今まで使っていたカセットプレイヤーのイヤホンが壊れてしまったので、その代わりとして丁度いいと思ったのだ。早速その日から使い始めた。今まで使っていたものより高性能な機種で、低音が今までより迫力あるような気がした。それでいて値段は新品の三割程度だったから、いい買い物をしたとFさんは大満足だった。
しかしそのイヤホンをしばらく使っていると、時々ではあるがノイズが走ることに気が付いた。
安かっただけあってもともと調子が悪かったのか、やっぱり中古はダメか、などと落胆したものの、気になる頻度でもないのでとりあえずは使い続けることにした。
そうしてある日の夜、カセットテープで音楽を聴きながら寛いでいた時のこと。
テープの両面が終わって再生が終了したことに気が付いたが、読んでいた本がいい所だったのでイヤホンをしたまま操作せずにいた。
そのまま何分か経った時である。


ガサガサ。ガサガサガサ。


耳の中で突然、何かを引っ掻き回すような、或いは何かを引っかくような音がした。
驚いてイヤホンを外す。音は聞こえなくなった。
奇妙な音はイヤホンから出ていたことに間違いないようである。もしかすると、この中に小さな虫でも入り込んだのではないか。しかしイヤホンには殆ど隙間などなく、音を立てるほどの生き物が入れそうな様子ではない。
Fさんは何度か指先でイヤホンを弾いてみてから、もう一度耳に近づけてみた。


ガサガサ。バリバリ。


やはり何かの音がする。
もしかすると、中に虫の卵が入っていて、それが孵ったのではないか。そうだとすれば気持ちのいい事態ではない。やはり買い換えなければ駄目か。
そう考えていると、ふっと引っかく音が止んだ。
おや、と思った瞬間。


やだー――――――っ!!


イヤホンから子供の絶叫が響いた。


Fさんはすぐにそのイヤホンを捨てた。今でも、その子供の声が耳について忘れられないという。