炬燵

大学生になってひとり暮らしを始めたTさんは、十一月の初めに電気炬燵を買った。
これで冬も快適に過ごせる、と早速使い始めた。
炬燵に足を突っ込んで課題のレポートなどを進めていると、ついついそこで寝たくなってしまう。しかしなるべくひとり暮らしでもだらけないようにしよう、と決心していたTさんは、寝る時はちゃんと布団に入ることにしていた。
しかし誘惑に勝てない時というのもあるもので、ある晩、Tさんは夕食の片付け後に炬燵に入るとそのまま突っ伏してしまった。大学の講義や課題、サークル活動で疲れていたのだ。
――このまま寝たら気持ちいいだろうな。
そういう考えが浮かび、今日はもうここで寝てしまおうか、と目を閉じた瞬間。


「もう寝るの?」


炬燵の中から子供の声がした。男の子の声だった。
Tさんは飛び起きた。一瞬で眠気が吹き飛んだ。
ひとり暮らしの部屋にTさん以外の誰かがいるはずもない。
一階なので、床下から声が響いてくることもない。
炬燵から急いで足を引き抜いたTさんは、炬燵布団を捲ると恐る恐る中を覗いてみた。
何の変哲もない電気炬燵である。誰もいない。
しかし男の子の声は確かに炬燵の中から、かなりはっきり聞こえたという。


それ以来、Tさんは炬燵では絶対寝ないようにしている。