画面に投影したリアルタイムの風景上に情報を付加する技術、拡張現実(AR)。
そこに仮想の恋人を投影させるという試みは二十一世紀初頭から実行に移されてきた。
愛足。愛足足。愛足足足。愛足足足足(以下略)。
その過程において――当然、予測されていたことだが――仮想の恋人との永遠の愛を誓い、二次元の像を生涯の伴侶とする者が次々に現れた。電気さえあれば、それこそ死が二人を分かつまで共に生きることができる。現実で相手を見つけるより、ある意味でずっと合理的である――とする意見もあった。
するとそこに新たな需要が発生した。拡張現実の相手との結婚式であり、更には妊娠・出産である。
拡張現実内の伴侶との間には、拡張現実内の子供が望まれた。拡張アプリとしてリリースされた「二人の愛の結晶」は空前のヒットとなる。このアプリはその後もバージョンアップを重ね、ユーザーの遺伝子情報を登録することでより遺伝的に正しい子供を構成する機能を実装した。
そうして拡張現実内に生まれた子供もやがて成長する。プログラムされた成長段階を経て。
余談ではあるが、そうしたARベビーに向けてのサービスとして拡張現実内での七五三、入学式、卒業式、成人式といったイベントも開催された。興味深いのは、それらのイベントが現実と同じようにリアルマネーを伴った点であり、またそれが当然のように受け入れられた点である。所詮仮想現実でしかない我が子の実在を確認するためには、コストを掛ける必要があったということだろうか。
成長した子供達はそれぞれ、自立した大人として振舞い始める。ネットワークを通じて、彼らは彼ら自身の伴侶を求め始めた。それはAR同士であったり、ARから現実の人物へのアプローチであったりした。
かくして、AR内で生まれた世代は次の世代を産み始める。AR内に現実とはかけ離れた独自の社会が形成されるのも、時間の問題となった。仮想の人口が増えるに従い、やがてAR内での死者と葬儀も必要とされるようになるが、それはまた別の話。