バスの団体

Yさんが中学生の時の話。
連休に家族揃って温泉旅行に出かけた、その帰り道のことである。午後五時頃、家族四人を乗せたワゴン車が、中央道を走っていた。休日のことで流石に道路も混んでいて、停止はしないもののあまり速度を上げられずにいた。
そうやって進むうち、気がつくと隣の車線に大型バスが並走していた。初めのうちはYさんの家族の誰もそのバスに注意を払ってはいなかったが、最初にYさんの弟が異常に気付いた。
「お地蔵さんが乗ってる!」
弟が指差すのでYさんも隣を走るバスの窓を見上げると、異様な光景が目に入った。
四十人以上は乗れるであろう大型バス、そのこちら側の窓から見える乗客が、どれも石の地蔵なのだ。車高が違うので向こう側の座席までは見えないが、少なくともこちら側には人間の乗客が一人も見えない。微動だにしない地蔵がずらりと座席に並んでいる。
Yさん姉弟が呆気にとられて見上げているうちに、隣の車線は空いてきたようで、バスはそのまま速度を上げて走り去った。
「すごかったね」「何だったんだろうね」とYさん姉弟が話していると、それまで黙っていた父親がハンドルを握りながら「お地蔵様とはありがたいものを見たなあ」と呟いた。一方母親はバスが横にいた間ずっと助手席で寝息を立てていたが、目を醒ましてから話を聞いて「私も見たかった」と随分がっかりしたという。