一月下旬、那覇近辺に遊んだ。金武町石畳道へ行き、その先にある天然記念物の大アカギを見た。
石畳道は長い坂道で、首里城まで続いているという。首里城は既に前日に行っていたから、大アカギを拝んでからすぐに来た方へ引き返した。ほかの観光客には出会わなかった。
しばらく坂を下ってゆくと、向こうからカメラを持った老人がひとり上ってくる。時々立ち止まって写真を撮りながら歩いている所を見ると観光客かと思ったが、顔立ちは南国的で沖縄の人のようにも思える。
擦違いざまに目礼してそのまま通り過ぎようと思った私を、老人は呼び止めた。
――本土から来た人かね。
――はあ、そうです。
間近で見るとぎょろりと大きな眼が鋭く、只ならぬ雰囲気があった。キジムナー云々はこの時の感想である。
――簡単な質問をする。
――はあ。
唐突になんだろうか。何やら試されている気になった。
――勿忘草、あれは草か花か?
――ワスレナグサ、ですか。
勿忘草は草なのか花なのか。恥ずかしながら私は植物には詳しくない。名前が草というくらいだから草なのではないかと思ったが、そもそも私は勿忘草をしげしげ見たことがなかった。珍しい植物ではないはずなので、見たことがないこともないだろうが、どういう植物なのか思い出せなかった。
それに質問の意味もよくわからない。花の咲かない草があるものだろうか。草に咲かない花があるものだろうか。
と、軽く混乱したのだが、なぜかその時私の口はポツリと答えてしまっていた。
――草でしょう。
なぜそう答えたのか自分でもよくわからない。後から考えると奇妙なことだが、とにかく答えたときには妙な確信があった。
――ほう、草……草ね。
老人は納得したのだかしてないのだか、少し虚空を見つめるような表情をすると、そのまま無言で坂を登っていった。
根拠のない答えを返してしまったのが申し訳なかったので、帰ってから勿忘草について調べてみた。
ワスレナグサと呼ばれている植物はヨーロッパ原産で、日本には明治時代に持ち込まれたものだという。
日本では、主に花壇や鉢植えなどで園芸観賞用として栽培されている。また一方で、野生化して各地に群生しており、日本全国(北海道・本州・四国)に分布している。一般に日当たりと水はけのよい湿性地を好み、耐寒性に優れているが、暑さには弱い。二年生もしくは多年生植物の宿根草であるが、日本で栽培すると夏の暑さに当てられて枯れてしまうことから、園芸上は秋まきの一年生植物として扱われる。(北海道や長野県の高地など冷涼地では夏を越すことが可能である。)
沖縄には自生していないようである。してみると、老人は単に沖縄に生えていない野草について興味があっただけなのだろうか。
或いはそうだったとしても、やはり質問の意味はよくわからないままである。果たして。