Yさんが仕事でフランスに行った時のことだという。
宿で眠ったその晩、妙な夢を見た。
石畳の坂道の下にいるYさんの足元に、何かがこつんこつんと当たる。
何だろうと下を見ると、周りに白くて丸いものがいくつも転がっている。つやつや光るそれらは、殻をむいたゆで玉子だった。
ゆで玉子は目の前の坂の上から次々と転がってきている。坂の上には何があるのだろうか。
見上げたところで夢から覚めた。


変な夢だったなあ、と思いながらベッドから身を起こすと、視界に白いものが飛び込んできた。床に白いかけらが散乱している。
一つ拾い上げてみてYさんは息を呑んだ。小さく割れた玉子の殻である。玉子の中身は見当たらない。ただ殻だけが、部屋の中に散らばっているのだ。どうしても夢の内容と重ねずにはいられなかった。
とにかくYさんがフロントに電話をかけると、用件を言わないうちから「人を向かわせます」という返事が来た。
駆けつけてきた従業員は、なぜか既に箒と塵取りを持っていたという。