夢一夜

こんな夢を見た。


「今年オリンピックじゃないすか」
「だね」
「で、出場選手がこう、母校を訪問して所信表明、みたいな映像をニュースとかで何度か見かけたんですけど」
「ああ、あるよねそういうの」
「それ見るたびに腹が立って腹が立って」
「何でよ」
「だってあいつら、決まって『皆さんに夢を与えられるよう頑張ってきます』みたいなことを言うんですよ。揃いも揃って。しかもオリンピック選手に限らず、以前高校野球の選手も同じ様なこと言ってました」
「……何かおかしいの、それ」
「おかしいですよ。おかしいですよ! 」
「二回言わなくても」
「すいません、つい興奮してしまいました。だっておかしいじゃないですか。あいつら所詮自分の好きでスポーツやってるんですよ。オリンピックとか甲子園行くのは単にその結果に過ぎないでしょうに」
「まあそうね」
「本人の満足のためにやってることで、他人様に夢を与えられると思っているあたりが思い上がりですよ。特に俺みたいにスポーツ観戦の趣味がない人間からすれば、別にそんなのに微塵も夢なんて感じませんよ。感動とか夢とかってのは観てるほうが勝手に感じるもので、選手がそれを目的にするものではないはずです」
「……お前、スポーツ選手嫌いなんだろ。って言うか、そういうコメントって応援してくれる人たちに向けたものなんじゃないの? 」
「別に嫌いじゃないですよ。興味はありませんがそれなりに頑張ってくれればいいと思ってます。
そりゃあ、母校なんかで後援会相手に演説する時はそうなのかもしれませんが、奴らテレビの取材に対しても似たこと言うんですよ。テレビだったら放送観てるのは応援してる人だけとは限らんでしょう。俺みたいに、試合を観るつもりがないどころか結果にも興味がないような人間ですら感動させられるとでも思ってるんですかね彼らは。自分がやっていることが絶対的に価値があると信じているんでしょうか。傲慢ですよそれは」
「いいじゃん別に。せっかく檜舞台に出てきたんだから、少しくらい大言壮語しても。……大会後も笑っていられるとは限らないんだから」