劇場版『魍魎の匣』

観料が千円だったので観てきた。原作をふまえて感想。ネタバレありで。

  • 昭和の石坂金田一ものと同じくらいの原作再現度か。エピソードが前後していたりとか、いろいろ事実関係や設定が変わってしまっているが、その辺りは映画だからこんなものじゃないだろうかと思う。あの原作を忠実に再現しようとすれば尺がとんでもないことになるだろうから。
  • 柚木加菜子が僕っ娘になっていた。彼女の中二病は原作よりも少し加速している。
  • 研究所から加菜子が消えるシーンはまるまるカット。話の最後に研究所が壊滅するまで加菜子は研究所にちゃんと収容されている。なのでミステリ色は薄かった。好きなシーンなので残念。「ほう」もラストシーンに一回のみ。
    • その変更点によって久保のバラバラ事件の動機もまた変わってしまった。なので加菜子が事故にあう以前からバラバラ事件が始まってしまっている。
  • 我らのヒーロー久保竣公は程よく狂人でした。キャラクターは基本的にみんな割と原作に忠実だった。
  • 戦後の東京の町並みが実に埃っぽくてよくできた映像だと思っていたら、ロケ地が中国だった。なるほどなー。


原作重視派にとっては難もあろうけれども、あれはあれでけっこう面白かった。箱に入った娘が映像化された所は大きいと思う。
個人的には『巷説百物語』の実写版くらいにハジけたやつが観たかったところもあるけど。唐突に殺陣が入ったりとか。
わりと切り離された手足とか出てくるので、そういうのが苦手な人は敬遠した方が吉。隣で見ていた見知らぬ中年女性は楠本頼子の腕が転がってるシーンで顔を覆っていた。逆側に座っていた若い男性はその時寝ていた。断面好きな人にとっても、断面がそれほど頻繁に出るわけではないのでそれ目当てに観るとがっかりだと思います。


関係ないけど『コミック怪』の漫画版魍魎の匣は鳥口とか青木とかの脇役が実に地味に描かれていてすばらしい。特に原作で密かにコケシ呼ばわりされていた青木刑事は本当にコケシみたいな絵になっている。京極堂はちょっと美形寄りすぎるような。個人的には京極堂のビジュアルは暮れなずむ幽鬼。ああでも妹は美形だから兄もそれなりに整った顔立ちしていてもおかしくないのか。

おまけ

につこり笑つて、
「ほう、」
と云つた。
ああ、生きてゐる。

何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。


文庫版『魍魎の匣』p.13より


「あら、関口さん知りませんでしたか? バラバラの脚が――ああでも脚が載るのは夕刊だな。この辺でと云うか、ここの小屋でバラバラ事件の、その、脚が発見されたんです」


文庫版『魍魎の匣』p.123より