坊主鬼(67/100)

 合宿最終日の夜は、毎年恒例の怪談大会である。俺はこの時のためについさっき五分で考えた話を披露した。
 「この寺には古い言い伝えがあってな。昔、近在で人を襲っていた悪鬼をこの寺の高僧が封じ込めたという。だがその鬼を封じたという大岩が、工事のために最近壊されてしまったそうな。解き放たれた鬼は、この寺目指して復讐に来るかもしれん。南無三宝
 噂をすれば影がさすという。俺の出鱈目な作り話によって、近くに潜んでいたもののけが呼び起こされてしまったのだろうか。惨劇は程無く起きた。
 その夜遅く、部員は一斉に目を覚ました。しかも皆一様に金縛りにあっている。どうしたことだと思っていると、襖が音もなく開いた。ふらりと座敷に入ってきたのは紛れもなく鬼である。鬼は端っこに寝ていたやつの枕元にしゃがみこむと、そいつの髪をムズと掴んだ。それからずるずる音を立てて、一気に髪の毛を啜りはじめた。短く刈られていたそいつの髪は、不思議なことに啜り上げるのに従ってどんどん伸び、鬼の口中へと吸い込まれていった。まるで蕎麦か饂飩である。やっと啜るのを止めたと思ったときには、犠牲者の頭は不毛の荒野と化していた。当人は既に気を失っている。被害は一人では済まなかった。皆動けないのをいいことに、鬼は端から順番に髪の毛を平らげてゆく。全員の布団を回り終えると、満足そうに帰っていった。
 翌朝、ずらりと並んだ坊主頭のめくるめく輝きに百八つの煩悩も根こそぎ浄化される思いがしたが、彼らの視線は俺に集中していた。正確に言えば俺のふさふさした頭髪にである。視線が痛いので、俺はズボンの裾を捲り上げてやった。見事につるつるの脛が覗く。寝相の悪い俺は、いつの間にか枕の方に脚を向けて寝ていたのである。
 肩身が狭いので合宿後、俺も剃髪した。



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百物語
お題のほうはまた今度。