海だるま

(これより前判読不能)、それ以来ここの海では妙なものが獲れるようになった。他所で獲れたという話も聞かないので、ここにしかいないのだろう。
潜ってみると、浅瀬の岩の間にたくさん青黒いものが転がっていて、大きさはテニスボールくらいからバレーボールくらいまでとまちまちである。どれだけ拾ってもすぐに増えていて、いくらでも獲れる。
手足も目も口も何にもないのだが、生き物には違いないらしく、殻を割ってみると肉やら内臓やらがみっしり詰まっている。
洋梨みたいなその形と、茹でると真っ赤になることから、誰ともなしにそれのことをダルマと呼ぶようになった。
これを誰かが野良猫やら犬やらに食わせてみたところ、喜んで食った上に翌日になってもぴんぴんしていた。それなら人様が食っても大丈夫だろうということでまた誰かが試しに茹でて食ってみたところ、これが実に旨い。蟹と海老のいいとこ取りのような味がする。
そんなわけで今ではみんなダルマを食う。得体が知れないので他所には出さないが、獲れればその晩のおかずになる。
焼いてよし、茹でてよし。汁にすれば良い出汁がとれる。冬なら鍋にもいい。
生食した話は聞かないが、蟹みたいなもんなら生でも問題ないだろうと思う。
食った後の殻は元通りに貼り合わせて顔を書けば、まったく本物の達磨と遜色ない。
駅前の土産物屋に並んでいる達磨は実はこれである。店の親爺は観光客に向かってこれは地元の伝統的な民芸品だなどともっともらしく吹いているが、当然真っ赤な嘘である。