六十九/ 火事のあと

Yさんが中学生の時の話というから、もう二十年近く前のことである。
近所で火事があり、家一軒が全焼した。
それからというもの、その焼け跡には何か出るという噂が立った。Yさんはこの噂が本当かどうか確かめようということで、友人と夜中に焼け跡を訪ねたという。
火事が起こってからひと月近く経っており、焼け跡はとっくに片付けられてただの砂地になっていた。畑と田んぼに囲まれていて、隣の家からも少し離れている。従って、明かりといえば街灯くらいのものだった。
Yさんたちが到着した時、そこには何か黒い塊が見えた。薄暗くて何だかわからないが、細長い物が砂地に横たわっている。大きさはちょうど人ひとりくらいだ。昼間に下見をしたときには確かにそんなものはなかった。
その時点でYさんたちはもう怖くなっていたのだが、一人ではない強みで恐る恐るそれに近づいていった。近づくにつれ、だんだん形がはっきり見えてくる。
それは人型をしているように見えた。しかし人とも思えなかったのは、それが一面真っ黒だからだ。それこそ消し炭のように見える。
数メートルのところまで近づいたとき、急にそれがごろっと向こう側に転がった。風はなかった。ひとりでに動いたのである。今まで下になっていた面が上になったが、やはりそちらも真っ黒だったという。
Yさんたちはとうとう耐え切れなくなって、悲鳴をこらえながら我先にと逃げ出した。
息を切らせてなんとか家に帰ると、玄関で母親に咎められた。「一体どこへ行ってきたの!?何その靴! 」
言われて足元を見れば、付いた足跡が真っ黒だった。靴底にべったり炭の粉が付いていたのである。まるで火を燃やした跡を歩き回ったような状態だったが、焼け跡はとうに片付いていたのだし、他にそんなものが付くような心当たりもなかった。


Yさんがいまだに腑に落ちないのは、そもそもその火事ではひとりも死傷者が出ていなかったことである。ならば、焼け跡に出るようになったものは一体何だというのか。