六十八/ ビンの蓋

アパート住まいのTさんの部屋には、ビンが一本もない。
それというのも、ビンを置いておくと勝手に蓋が開いてしまうからである。
原因はまったくもってわからない。ともかく、入居した当初にペットボトルやら一升瓶やらが片っ端から開いてしまって以来、どうやらビンの蓋はこの部屋では開いてしまうらしい、ということだけはわかったので、それ以来Tさんはビンものを置かないようにしているという。
それを聞いたTさんの友人が、本当にそうなのか実験してやろうということで、大小さまざまなビンを持ち込んだことがあった。
何本ものペットボトル、一升瓶に始まり、口の広いビン、コルク式のワイン、さらに買ってきたばかりで蓋の上にビニールのパッケージがあるものもあった。
どれも食べ物や飲み物ばかりで、実験を半ば口実に酒盛りでもしよう、というつもりだったようだ。
集めたビンを机の上に並べ、皆でじっと見守る。十分経ち、二十分経ったが特に変化は見られない。やっぱりTさんの出任せではないのか。みなそう思ったようだった。友人の一人が笑いながら何気なく一本のビンを取り上げた。
すると、固く閉まっていたはずの蓋がぽろっと落ちた。皆が固まる。
その次の瞬間、特に机が揺れたわけでもないのに、上に並んだビンの蓋が一斉にぽろぽろ落ちた。ワインのコルク栓などは、ビンのガラスを通り抜けたかのように抵抗なくビンの横に落ちたし、ビニールのかかっていた蓋はビニールごと落ちた。拾い上げてみると、ビニールにはどこにも切れ目がなかったという。


宴会どころではなくなった。