「破約」あらすじ。
ある武士の妻が病死する。妻は死際に夫に向かって再婚しないことと自分を庭の梅の木陰に葬るよう願う。夫はこれを約束する。
望みどおり妻は庭に葬られたが、一年ほどして夫は周囲の勧めに負けて新たに若い花嫁を迎える。
やがて元の妻は新妻に祟るようになる。命の危険を感じて離縁を願う新妻だったが、夫は家来に護衛させることで何とかなだめる。
明くる朝、夫が新妻の部屋に向かうとそこには首をもぎ取られた新妻の死体があるばかり。血のしたたりを辿ると、元の妻の墓の前に新妻の首を掴んだ魔物がいる。家来が切りつけるとそれは破片に散ったが、骨ばかりの右手はなおものたうち新妻の生首をずたずたに引きむしっていた。……
ヤンデレのもたらすものは
つまるところこのようなもの
それとも殿は
駿河五十五万石を引き換えにされても
このようなものが御覧になりたいと仰せられるか?
というハートフルストーリーなのですが、この新妻候補を複数にしてしまえばギャルゲーに早変わり。
あらすじ。主人公がなんやかやで感動的なシナリオの末、周囲の女子と懇ろになる。しかし結ばれた途端、過去の恋人(既に死亡)が新しい恋人の首をむしりに来る。どのルートでも結局ヒロインがむしられて完。結末に原作の引用。
「これはひどい話だ」とわたしは、この話をしてくれた友人に言った。 「その死人の復讐は、――いやしくも復讐するのなら――男に向かってやるべきだったと思います」
「男たちは、そう考えるのですが」と彼は答えた。「しかし、それは女の考え方ではありません」
友人の言うことは、正しかった。
思えば雪女にしろ、鶴の恩返しにしろ、羽衣伝説にしろ、或いはメディアあたりにしても、女性が自分を裏切った男性に復讐するという形はあまり見られないように思います。メディアに至っては敵たる女性のみならず、イアソンとの間にもうけた子供までも殺して去っていきますが、やはりイアソン自身には手を下さない。で、裏切られた女性は復讐するしないはともかく、男性のもとから去ってゆく。去りかたにしても、飛んでゆくパターンがよく見られる。鶴の恩返しなんかはその最たるものです。裏切った男は罪深さゆえに地上に取り残され、それを尻目に女は天へと去っていく、という捉え方もできるかもしれません。
あるいは、男に対する最大の復讐たりうるのはその殺害ではなく、その元から去ることにあるということなのかもしれません。
世の男性諸兄、殺されるのと立ち去られるのとどっちがより厭でしょうか。