五十五/ 緑の小人

Sさんが学生の時分、休日に友達のTさん、Kさんと車で遊びに行った帰り道のこと。
街中を走行中、後部座席にいたTさんが突然「あっ、小人」と声をあげた。SさんとKさんが聞き返すと「うん今、道端に小人がいた」と言う。
詳しく聞いてみるとその小人の大きさは三十センチほどで、緑色の服を着て道路脇で踊っていたらしい。人形か何かの見間違いじゃあないの? と聞くと「いや、動いてたし、あれは確かに小人だった」と妙に自信たっぷりの様子だった。
翌日他の友人にその話をしたところ、皆興味津々だったので直接Tさんに話を聞いてみようということになった。しかしTさんの姿が見えない。講義も欠席していたという。それもそのはずで、そのすぐ後に判明したことには、Tさんは交通事故で怪我をして入院していたのである。
おかしいのはここからだった。Tさんが事故にあったのはSさんKさんと別れた後ではなく、昨日の朝のことだというのである。朝、家を出たTさんはすぐに事故に逢ってそのまま病院に担ぎ込まれ、今までずっとそのままだったという。
しかしSさんとKさんは確かにTさんと一緒に出かけた記憶があるし、別段Tさんに変わった所はなかったように見えた。何より出先で一緒に写真も撮っている。急いで現像してみたら確かにいつも通りのTさんが写っていた。その写真を後でTさんに見せると、全く記憶に無いという。
結局一緒に遊びに行ったTさんは何だったのか、小人がどうのと言っていたのは何だったのか、いまだに判らずじまいである。