五十三/ 蛇球

Mさんは子供の頃、蛇を殺そうとしておじいさんにひどく叱られたことがある。
おじいさんは後でその理由を教えてくれた。


おじいさんは子供の頃、よく蛇を殺して遊んでいたそうだ。
大体蛇がどこに潜んでいるのか見つけるのが得意で、暇さえあれば山で蛇を獲っていたという。
ある日いつものように蛇を探しに山へ入ると、なぜかいつもより辺りが静まり返っている気がした。
なんだろうと思いながら進んでゆくと、突然脇の斜面から西瓜ほどの大きさの球が勢いよく転がり落ちてきた。
驚いてよく見ると、それは何十匹もの蛇が絡まりあってひとつに固まったものだった。
蛇の球は目の前でぴたりと動きを止めた。
それが威嚇しているように見えて、これ以上進んだらただでは済まないように感じたおじいさんは一目散に逃げ帰った。
その晩おじいさんの両足には握り拳大の水ぶくれができて、その痛みで一週間ほど歩けなかったという。医者に診せても原因不明で、完治するのに半年近くかかったらしい。
それ以来おじいさんは蛇を獲るのをやめた。


「これがその痕でなあ」
おじいさんは両足の大きな痣をMさんに示して言った。
「だから蛇は迂闊に殺してはならん」