五十一/ 陳列棚

Hさんは学生の頃の一時期、コンビニエンスストアでアルバイトをしていた。
ある日の夜勤の時のこと。
深夜で客もいないので、スタッフルームで少し休憩して、掃除でもしようと店内に戻った。
初めは、眠気で目がおかしいのかな、と思ったらしい。
店内が妙に白っぽい。何かが違う。
よく見ようと一歩踏み出して、そこで固まってしまった。
商品を並べた陳列棚が真っ白に見える。
それは、棚一面に真っ白い蛾がびっしりと張り付いていたためだった。
一匹の大きさが手のひらくらいはある大きな蛾が、店内にある全ての棚を埋め尽くしている。
虫の少ない真冬のことで、当然出入り口も閉まっていた。
ほんの少し目を離していただけの間に、一体どこからこんなに入ってきたというのか。
動けないHさんの目の前で、蛾たちは一斉に翅をはばたかせ、舞い上がったかと思うと空気に溶けるように一気に消えた。
気が気でなくなったHさんはビクビクしながら夜を明かすと、翌日そのアルバイトを辞めた。
その店はそれから半年ほどで潰れたという。