五十/ 増えた先生

Mさんが高校生の時の話。
午後の授業中についつい睡魔に負けて、数分間机に突っ伏した。
気がついてみるとどうやら居眠りしていたのは僅かな間だけだったようで、授業はほとんど進んでいなかった。
しかし、変わっていることがあった。
なぜか先生が二人いる。
別の先生が加わったわけではない。
授業をしていたのは中年の男性教師だったが、その先生が二人に増えている。
二人いる先生は、一人が普通に授業をして、もう一人は黒板側のドアの前で静かに立っている。
立っているほうの先生は動かないのかと思えば、ツカツカと黒板に寄って話の終わった部分の板書を消したりしている。
どちらかが本当の先生なのか。どちらも本当の先生なのか。さっぱりわからない。
Mさんはまだ目が覚めていないのかと自分を疑った。
しかし意識ははっきりしているし、感覚もいつも通りだ。
何度も見直してみるが、やはり同じ先生が二人だ。
教室を見渡してみれば、他に怪訝な顔をしているクラスメートはいないようだ。
訳がわからぬまま、その授業は終わった。
二人の先生は揃って教室を出て行った。
Mさんは、クラスメートに事の次第を聞いてみる気にはどうしてもなれなかったらしい。
同じ先生の次の授業では、先生は一人に戻っていた。
二度と先生が増えることはなかったという。

「この話、人に教えるのは初めてです」
とMさんは言った。