四十七/ 移動する影

ある日の夜、Sさんが日課である愛犬の散歩をしていた時のこと。
月の明るい晩で、道沿いの電柱の影が伸びているのがはっきり見えた。
Sさんがある地点まで差し掛かったとき、足元に伸びる電柱の影がにゅっと動いた。
隣の電柱の影はそのままなので、光源が動いたせいというわけでもなさそうである。
しかしその影の主を見上げてみても、そこにはただの電柱が立っているばかりで、特に動くものはない。
再び足元を見れば、影だけがその主を無視したように伸びたり縮んだりしている。
不思議なこともあるものだと思って数分間影を見つめていたが、いくら見ていてもただ伸び縮みするだけなのでその日はそのまま帰った。
次の日、同じくらいの時間にそこを通りかかってみると、やはり同様に動く影がひとつだけある。
ただひとつ、前日とは異なる点があった。
その影は前日動いていた影とは場所が違っていたのである。
Sさんは前日の影の場所をよく覚えていたが、今度の影はその隣の電柱のものだった。
もしやと思ってその次の日も行ってみると、予想通り動く影は更に隣の電柱へと移動していた。
その後も毎日、Sさんはそのルートで犬の散歩をしていたが、影は必ず前日の隣のものが動くようになっていた。
曇りなどで影が見えない日は、その日動くはずだった場所を通り越して次の日に続いていった。
しかし、しばらく追っていた後で影の移動ルートがSさんの散歩ルートを外れていってしまったので、それ以上追跡するのを止めてしまった。
Sさんはあの動く影が今どこまで行ったか、時々気になるという。