四十四/ 海水浴客

Kさんが学生の頃、友人数人と泊りがけで海水浴に行ったことがあった。
最後の晩に花火をすることになり、皆で砂浜に繰り出した。
夜の砂浜は他に人影もなく、思う様はしゃぎまわることができた。

帰ってから数日後、撮影役をしていた友人から連絡があった。
撮ったビデオや写真を見てほしいという。
同行した友人皆で集まることになった。
撮影役の友人は集まった皆に「ちょっと先にこれから見てほしいんだけど」と言ってビデオを再生した。
どうやら花火のシーンである。
だがすぐに違和感を持った。
――これは先日の旅行のビデオではないのではないか?
そう思ったのも、そのシーンはKさんの記憶と大分食い違っていたのである。
ビデオは花火をする皆を数メートル引いたところから撮っている。
花火を手にはしゃぎまわる彼らの周りには、なぜか水着姿の海水浴客が沢山映っている。
男女問わず、歩き回ったりシートの上にくつろいでいたり、それだけ見れば自然な海水浴のワンシーンである。
暗くさえなければまるで昼間の同じ場所のようだ。
しかし前述のように、あの時には砂浜には彼らの他誰もいなかったはずだった。
第一こんなに人がいる場所で花火などできるはずがない。
ビデオが終わって、撮影者の友人が「どう思う?」と聞いてきても、誰も何も言えなかった。