『風のレーサー侠(おとこぎ)』

ここのところ田宮模型ミニ四駆のメモリアルボックスとやらを次々発売して、『ダッシュ!四駆郎』の愛読者だった私も過去を懐かしむこと頻りでしたが、間近くは昨年末に発売した『スーパーミニ四駆メモリアルボックスvol.1』。
このセットは故・徳田ザウルス先生のミニ四駆漫画『風のレーサー侠』に登場した車種を収録しているのですが、十年以上昔のこの漫画がまた美事な打ち切られっぷりでした。Wikipediaで検索してみたらあんまり詳しく書いてなかったので胡乱な記憶を辿ってみます。


○あらすじ『風のレーサー侠』
自称渡世人の少年、侠仁義(おとこぎ・じんぎ)。彼の前に風法師と名乗る山伏姿の老人が現れ、世界に闇の力が迫っていること、闇の力を退けるには伝説の木火土金水のレーサーの力が必要なこと、そして仁義こそは五つの力を導く風のレーサーであることを告げます。
仁義は風法師から託された風のマシン「自由皇帝(リバティーエンペラー)」とともに、五人のレーサーを集める旅に出ます。
五人のレーサーを集めたところで現れる真の敵「暗黒皇帝」。
レースの末それを打ち破った仁義たち。
悪はさった!


という話で、前作品『ダッシュ!四駆郎』とは一風違い、伝奇的な味付けの作品でした。
なぜか土の中からミニ四駆が発掘されたり(ちゃんと走る)、
ただの人だったはずの仁義君がレース中に突然風を操って見せたり、
火のレーサーのトム君と水のレーサーの速水さんも当然のように虚空から火や水を放出してミニ四駆を操ったり、
各章の最後に侠気溢れるポエムが挿入されたり、
といった具合に中々見所満載の作品な訳ですが、打ち切り作品とあっててんとう虫コミックス全一巻の短さです。
当然展開も豪快に端折られて、「火のレーサーとのレースとの末これを仲間に、そして旅立ち」→「水のレーサー*1を仲間に」まで来たところで、突然風法師が金のレーサーと土のレーサーを探し出して現れます。
更に木のレーサーは風法師自身である、と告げます。
伝説のレーサーそんな簡単に見つかっちゃうんですか!しかも爺さん自身が木のレーサーかよ!先に言ってよ!と当時の私は思いました。今も思ってます。
そして次回が最終回。前置き無しに最後の敵である暗黒皇帝君が登場。一話でこれに打ち勝ち、物語は大団円です。
展開が速すぎて結局土のレーサーと金のレーサーは名前が出てこず仕舞でした。
で、最終回のレースの内容はというと、伝説のレーサーが束になっても暗黒皇帝のマシンの圧倒的な能力の前に力及ばず、一人また一人と仲間がリタイアしていき、最後に一騎打ちにて辛くも仁義君が勝利します。
伝説のレーサー達は仁義君をかばうようにしてリタイアしてゆくわけですが、その中で木のレーサー風法師さんは全然活躍しないままマシンがお釈迦になります。最終戦にしてミニ四駆レーサーとしての初舞台だというのに見所が皆無です。
伝説のレーサーの中でこの風法師さんだけ飛び抜けて年上でした。
他のメンバーは十代から精々二十代。おまけに暗黒皇帝も十かそこらの少年です。風法師さんだけ老人です。
伝説のレーサーとしての使命に目覚めたのが何歳のときやら判りませんが、それが物語の始まるずっと前だったとすれば、使命を果たすそのときを老境を迎えるまでひたすら待って、やっとそのときが来たところで大した活躍もせずに終わるという不遇。
あるいは仁義君に会いに来る僅か前に使命に目覚めたとすると、これまた山伏として修行に明け暮れていた彼を、ミニ四駆というそれまで無縁であったであろう子供の遊びに無理矢理参加させる残酷な使命。
いずれにせよ彼の半生を思うと涙を禁じえません。

*1:そういえば水のレーサーの使う「ポセイドンX」が『GS美神』のミニ四駆の回に出てくる「プテラノドンX」の元ネタでした。