第1番 ふわっ

部活が長引いたので結局帰りの電車に乗ったのは22時過ぎだった。
普段は寄り道も殆どしないのでこんな時間に帰ることは滅多にない。
乗ったときにはそれでもロングシート席の半分くらいは埋まっていた。
ふた駅過ぎたところで隣に制服姿の女子高生が座った。
男子高校生の悲しさで、否が応にも意識してしまう。
何やら脈が速くなってきた。
その上、程なく彼女は居眠りを始めるとこっちの肩に頭を預けてきた。
ふわっ。
シャンプーの匂いが届いた。
身動きが出来ない。
触れた肩が熱い。
背筋が伸びた。
まっすぐ前を見据える。
向かいの窓に自分の顔が見える。
しかし何だか違和感がある。
何だろう。
気付いてゾッとした。
隣の女子高生がガラスに映っていない。
しかし確かに視界の端には彼女はいるし、自分の肩には重みがある。
さっきとは違う理由で鼓動が速くなった。


次の停車駅で彼女は目を醒ますと、何事もなかったかのように降りていった。
顔は最後まで見えなかった。