2021-01-01から1年間の記事一覧

解体工事

Eさんが民家の解体工事をしたときのこと。二階建てで築二十年くらいの平凡な民家だったが、重機で崩し始めたときに異変があった。カラカラとガラス戸を開け閉めするような音がするのだ。Eさんだけでなく、現場にいる者がみなこの音を耳にした。重機のエンジ…

毛皮

Tさんは小学五年生のときに親の仕事の都合で引越し、それに伴って転校することになった。新しい小学校は新居から歩いて十五分くらいかかるところだった。転校後ひと月ほど経ってその辺りの地理にも詳しくなってくると、近道にも見当がついてきた。途中にある…

くの字

Fさんは出産を控えて夫の実家に滞在することになった。当時Fさんの両親はすでに故人で、夫の母親を頼ることになったのだ。夫の実家は古い農家で、広い庭と古く大きい家があるものの、義父はずっと前に亡くなっていて義母が一人で暮らしていた。夫は仕事で忙…

鼻唄

Wさんが彼女の家の近くで待ち合わせをしたある朝のこと。道端のベンチに腰を下ろして彼女が来るのを待っていたところ、近くから誰かの鼻唄が聞こえる。男の声だ。しかし誰の声なのか、周囲に目をやっても姿が見えない。声はすぐ近くから聞こえているのに人の…

空家の探検

Kさんが中学二年生の時のこと。偶然、同じ町内に空家らしき古い家を見つけた。二階建ての平凡な家屋だが門に板が打ち付けてあり、なんだか物々しい雰囲気がある。自宅から徒歩で十五分くらいのところだが、通学路とは反対方向で普段あまり行かないあたりだっ…

信号待ち

Mさんが出張で遅くなった帰り道、途中のトンネルのすぐ手前で信号が赤になった。朝早くに家を出たのでもう今日はすぐ帰って寝たい。そんな気分だからか、信号が変わるのがいやに遅く感じられる。いつもは通らない道なので道順をあれこれ考えながら信号が青に…

発熱

高校のサッカー部でこういうことがあったという。練習中に部員が一人、突然崩れ落ちるように倒れた。呼吸が荒く熱が高い。意識はあるが顔が真っ赤で酷く苦しそうだ。すぐ保健室に担ぎ込んでベッドに寝かせた。救急車を呼ぶほどではなさそうだが家に連絡して…

裸足坂

台風の近づく雨の日のこと。Eさんが彼女の家に向かう途中、上り坂にさしかかった。風も出てきたので傘を煽られないように気をつけながら坂を登っていった。視線を路面に落としながら歩いていると、突然視界に裸足が現れた。道の脇に裸足の誰かが立っている。…

浜伸び

夕方に浜で釣りをしていた人の話。日が落ちかけて暗くなってきたのでそろそろ切り上げるか、と思ったところで視界の端に見慣れないものが映った。砂浜の向こうに長く突堤が伸びている。その先端に、真っ黒なものが立っている。先程釣りを始めたときにはあん…

顔老婆

Eさんの近所に空巣狙いの泥棒が入った。家の中が何箇所か荒らされていたが、確認してみると不思議なことに盗られたものはなさそうだった。銀行の通帳や貴金属など金目のものは手つかずだし、他にも失くなったものがない。警察に被害届は出したが、一体どうい…

シルエット

川崎で就職したEさんが長野の実家に帰省したときのこと。以前自分の部屋だったところは物置になっていたので仏間で寝た。ところが寒くて夜中に目が覚めた。布団はしっかりかけているのにどうにも手足が冷たい。手足が冷えているせいか、体がとても重たい。ど…

コーヒー好き

休日に本屋に行き、目当ての新刊を買ってから喫茶店に入ったときの話だという。席についてホットコーヒーを注文し、早速新刊を読み始めた。程なくしてコーヒーが運ばれてきたが、読み始めたところなのですぐには口を付けなかった。夢中で一章を読み終えて、…

おんぶ

都内で電車に乗ったときのことだという。平日の午後で車内は空いていた。座席に腰を下ろして発車を待っていると、隣の車両からドアを開けて誰かがやってきた。三十代くらいの女性で、スーツをきっちりと着こなし、颯爽とした足取りでこちらに進んでくる。し…

並走

ある人が原付で通勤するのをやめて車を買った。こんなことがあったせいだという。仕事帰り、ふと気付くと原付の真横に何かが並んで走っている。自転車だ。しかし誰も乗っていない。無人の自転車が原付と同じ速度でぴたりと横に付いて走っている。そんな馬鹿…

市民会館

市民合唱団に所属していた人の話。その合唱団では毎年秋に市民会館でコンサートを行うのが恒例になっている。五年ほど前のコンサート前日、市民会館で準備をしている最中にこんなことがあったという。楽屋が並ぶ廊下を三人で歩いていると、誰かがぜいぜいと…

濡れ足

Yさんが風呂上がりにリビングで寛いでいると、妻が怒った様子で呼ぶ。どうしたんだ、と廊下に行くと妻は口をへの字にして下を指差す。床に濡れた足跡がいくつも並んでいる。あなた、濡らしたらちゃんと自分で拭いてよ。妻はそう言うが、Yさんに心当たりはな…

着せ替え人形

Oさんは定年退職後の新たな趣味として釣りを始めた。釣りは子供の頃に友達がやっていたのを見たことがあるくらいで、自分でやるのは初めてだったから、本屋で教本を買って勉強しながらやってみようと考えた。はじめは家のすぐ近所の運河で釣っていたが、あま…

老犬

Uさんが小学生の頃、通学路の途中にある家に一匹の犬が飼われていた。白い中型犬でもう結構な老犬らしく、Uさんが見たときには軒下に横たわっていることが多かった。吠えたところも見たことがなかったくらいだから、通行人にとってはいてもいなくても同じ…

雲上線

三十年近く前、山梨の山間にある中学校でのことだという。土曜日の午後、グラウンドで野球部とバレーボール部が練習をしていた。よく晴れた日で、青空に白い雲が点々と浮かんでいる。練習中の部員のひとりが、ふと空を見上げて怪訝な顔をした。近くにいた他…

浜の人形

大型の台風が通り過ぎた直後の週末、Mさんは車で海岸まで出かけた。その少し前にビーチコーミングの記事をネットで読んだMさんは自分もやってみたくなったのである。ビーチコーミングとは、海岸で漂着物を探すことである。もともとは販売目的で漂着物を拾い…

逃げ出した少女

Rさんの持っているアパートの話だという。エレベーターに幽霊が出るという噂が立った。ドアが開くとエレベーターの中に女の子がいる。中学生くらいの年格好だが、ボサボサ髪で下着姿、身体のあちこちにアザや擦り傷がある。内股に血が伝っていた、と語った人…

歩道橋の下

Kさんが車で通勤するルートの途中に、歩道橋の連続する区間がある。ほんの数百メートルの間に三つの歩道橋が道路をまたいでいて、その下をKさんは毎日朝晩にくぐる。田舎ではあるが幹線道路なので車の往来が多く、すぐ近くに小中学校もあって通学路にもなっ…