2020-01-01から1年間の記事一覧

ひとだま

Kさんの神奈川の実家には時々ひとだまが出る。ある時Kさんが東京から帰省した。玄関の前まで来てインターフォンのボタンを押そうとしたとき、視界の端にひらひら動くものが映った。何気なく視線をそちらに移すと、細長いぼんやりしたものが地面の上で揺れて…

城山公園

Yさんが妻と二人でドライブに出かけた。隣町に城山公園という、城址が公園になっている場所があり、高台で見晴らしがいい。ここで車を降りて一回りしようということになった。桜並木が有名で花見シーズンには人混みでごった返すものの、このときはもう葉桜の…

てるてる坊主

夜九時過ぎ、Rさんの携帯に彼女からの着信があった。出てみると随分落ち着かない様子で、すぐ来てくれという。どういうことなのと聞き返すと、アパートの部屋の前に変なものがいて、怖くて入れないとのことだった。変な人がいるんだったらまず警察呼んだほう…

結婚生活

Rさんは中学生になる頃から何度も同じ夢を見るようになったという。夢の中では若い女性と一緒に暮らしている。現実には会ったことのない見知らぬ女性なのだが、夢の中では夫婦になっている。毎回目が覚めてからああ今のは夢だったかと自覚するものの、夢の中…

並ぶもの

Kさんは高校生の頃、社会人の男性と付き合っていた。彼の住むアパートを訪ねたある日、夕方に二人で近所のコンビニまで行った。部屋に戻る途中に車の販売店があり、ガラス張りのショーウィンドウがある。そのガラスに映った自分たちの姿を何気なく見たKさん…

窓を開けたら

Nさんには高校時代からのSという友人がいた。あるときSが入院したと伝え聞いた。話によると、少し前に奥さんが浮気した挙句に出ていって、Sは酷く気を落とした様子だった。そのせいなのか体調まで崩し、検査で癌が見つかったという。高校生の頃から明るいム…

路地から山

Kさんが日曜に彼氏のアパートを訪ね、夕方まで一緒に過ごしてから一人で帰るその途中のこと。最寄りの駅への近道となる路地を進んでいくと、前方の電柱の側に誰かが立っていることに気付いた。茶色の背広を着た男の人だ。他に人の姿もないし、これは違う道を…

水中メガネ

東京から北海道に帰省する、大洗から苫小牧行きのフェリーでのこと。夕方に甲板を散歩しながら、ふと海面に視線を落としたところで波間に何か白くて丸いものが見えた。顔だ。水中メガネを着けた人の顔が船を見上げている。頭には白い水泳帽を被っていて、顔…

危険な拾い物

現在大学生のFさんが小学三年生の時の話だという。友達三人で下校中、リーダー格のT君が変な声を上げて道端にしゃがみこんだ。すげえの落ちてるぞ、と言うのでFさんたちも覗き込むと、ガードレールの根本に黒い角張ったものが見えた。鈍く黒光りする拳銃だ。…

パフェ

Nさんが小学三年生のときのこと。家でひとり留守番していると、祖父がふらりと訪ねてきた。「おう、久しぶりだなあ」祖父がそう言って朗らかな笑顔で玄関先に立っていたのをよく覚えている。言葉の通り、Nさんが祖父に会うのはしばらくぶりだったので嬉しく…

床の間

Hさんの祖母が亡くなった。脳卒中による入院中に肺炎を起こし、容態が急変して親族が集まる間もなく息を引き取ったので、Hさんも祖母を看取ることはできなかった。葬儀が済んで一ヶ月ほど経ったある夜、Hさんがベッドに横になると耳元で声がする。「誰か、ね…

後煙

工場で働くMさんが休憩時間に外で煙草を吸っていると、後から年配の同僚であるKさんがやってきた。お互い口数が多いほうではないし、それほど親しくしているわけでもない。軽く会釈したきり無言で煙を吹かしていた。すると突然、Mさんの背後から肩越しにふぅ…

揺れる、叩かれる

Kさんの職場はビルの五階にあるので、毎日エレベーターで上る。ある朝Kさんが一階でエレベーターに乗ると、なぜか一人きりになった。いつもであればその時間は出勤してきた人たちが続々と乗るのだが。珍しいなと思いながら五階のボタンを押すと、すぐに扉が…

閉めずの扉

Tさんが高校生のときにOという友人がいた。高校に入ってからできた友人だが、何かと気が合い、お互いに家に遊びに行くこともあった。そうして何度目かにOの家に行ったとき、ふとTさんの目に留まったことがあった。Oが二階にある自室のドアを閉める時に、いつ…

水色の背中

Uさんの住む町内にひとつ、荒れた二階建ての民家があった。民家といっても人が住まなくなってもう十年以上経った廃屋だ。人が住んでいた頃から既に古い建物だったらしいが、何かの事情で住人が出ていってからは老朽化が加速した。昨春の時点で屋根瓦は幾つも…

最初の挨拶

小学校教師のHさんの話。新しく赴任する学校に初めて行った時のこと。校長先生に挨拶するために校長室に向かう廊下で、子どもたちに出くわした。三年生か四年生くらいの男の子たちが五人、賑やかに話しながら歩いてくる。そしてHさんに元気よく挨拶してきた…

初雪

大学生のUさんが朝起きて窓のカーテンを開けると、外は一面の雪景色だった。その冬初めての雪だ。雪はもう止んでいたが、アパートのベランダにも数センチほど積もっている。溶けるまで外に出たくないなあ、などと考えていたところ、ふとおかしなものに気がつ…

土器

三十年以上前、Eさんが小学生の頃のこと。当時会計事務所に勤めていたお父さんが、ある晩上機嫌で帰ってきたかと思うと、いいものを拾ったと言ってビニール袋に入ったものを取り出した。ひと目見たときは土のかたまりかと思ったが、よく見るとそれは土器の破…

懐中電灯

Yさんは高校のバレー部で練習中に脚を挫いた。保健室で手当をしてもらったが、痛くてひとりで帰れそうもない。家から車で迎えに来てもらうまで、保健室で休んでいることになった。ベッドに横になっていると、校舎内が随分静かに感じられた保健室は運動部が活…

腐し婆

三十年ほど前、栃木のある村でのことだという。村で農家を営んでいたNさんが、ある日知人の畑を手伝って帰宅する途中でのこと。田畑の中のあぜ道を歩いていると、前から誰かがやってくる。腰の曲がった小柄な老婆だが、その割には健脚なのか、早足くらいの速…

偶然

偶然の一致という言葉がある。遠く離れた場所で、相次いで似たような出来事が発生したり。珍しい出来事があったすぐ後に、再び同じようなことに出くわしたり。関係のないはずのふたつの出来事に、人は時に共通点や因果関係を見出してしまうことがある。これ…

夢中の手

Fさんは幼い頃から何度も同じ夢を見たという。 ふと気がつくと頭上に誰かの手のひらがあり、Fさんの頭を押さえつけようとしてくる。必死に避けようと頭を反らすが、手は執拗に追ってきて振り切れない。やめて、誰か助けて、ともがいているうちに目が覚めるが…

山笑う

今から50年以上前、Oさんの祖父は福島の山中で炭焼きをしていたという。Oさんが物心ついた頃にはもう辞めて街に住んでいたが、Oさんがせがむと祖父は喜んで当時の話を色々語ってくれた。ある時祖父はOさんにこんな話をしてくれた。 誰にも会わないでひとりで…

ばあちゃん

大学生のMさんが友人たちと川原でバーベキューをした。車で山の中のキャンプ場に行き、そこに流れる川のほとりで肉を焼いて飲み食いし、日帰りする予定だった。六人で車二台に乗り、午前十時くらいにはキャンプ場に着いて食事の支度を始めた。バーベキューは…

満天の星

Jさんが大学生のときのこと、日没後に友人のアパートに向かって自転車を走らせていた。途中に線路があり、踏切を渡る。遮断器はちょうど上がっており、スピードを緩めないまま目で左右だけ確認して線路を越えた。するとその途端に頭上でピカピカッと強い光が…

あけましておめでとうございます。