2019-01-01から1年間の記事一覧

Kさんのお祖父さんが若い頃の話だという。近所の川に一人で釣りに行った。岸に腰を下ろして釣っていると、背後で呼ぶ声がした。「おい……おい」ほんのすぐ傍から聞こえているようなのに、見回しても誰の姿もない。陰になるような場所もない。それって動物の鳴…

貝掘り

友人と一緒に海に貝掘りに行った人の話。砂が盛り上がっているところを狙って掘るとアサリがいる。このあたりかなと目星をつけて砂地を掘っていると、硬いものに当たった。砂をどけると確かにアサリだ。ごろごろと二十を越えるくらいの数は固まっている。こ…

赤いランドセル

乳酸菌飲料の配達の仕事をしていたOさんの話。配置換えで、それまで担当したことのない地域に初めて配達に行ったときのこと。台地の上に造られている団地で、途中で十五分ほど曲がりくねった坂道を登っていく。不案内なので車のナビを頼りに初めての道を辿っ…

つないだ手

Nさんが小学生のときのこと。両親と一緒にデパートに出かけた。Nさんは迷子にならないように、お父さんとずっと手をつないで歩いていた。お母さんはちょっと見に行きたい売り場があるということで二人を置いてどこかに歩いて行ってしまい、Nさんはお父さんに…

仏間の写真

東京で勤めていた会社が倒産して職を失ったTさんは富山の実家に戻った。地元で就職先が見つかるまでは実家に居候することにしたのだが、高校生の頃までTさんが使っていた部屋はもう物置にされていた。仕方がないのでTさんは仏間に寝起きすることにした。仏間…

親子

前夜から雪が降り続く午後のこと。当時高校生だったKさんが帰宅途中、傘を差したお母さんと小学生の女の子が並んで前方を歩いていた。楽しそうに言葉を交わすその背中を眺めながら歩いていたKさんだったが、そのお母さんの肩越しにもう一つ顔が覗いた。肩の…

夜中のベル

Fさんの奥さんがある時こんなことを言った。最近、夜中に二階から自転車のベルが聞こえるの。夫婦の二人暮らしで、寝室は一階にあるから夜には二階に誰もいない。二階には就職して家を出た娘が以前使っていた部屋と、物置くらいしかない。もちろん自転車など…

ブチ

Nさんはブチという名前の猫を飼っている。まだ子猫の時に車に轢かれ、道端で血まみれのところをNさんが見つけ、急いで動物病院に連れて行って手術してもらった。処置が間に合ったおかげで一命を取り留めたが、顎の骨が砕けて半分なくなってしまった。そのた…

スマホカメラ

終電に乗った人の話。仕事ですっかり遅くなり、駅まで走って終電にギリギリ間に合った。座席に腰を下ろすと、SNSでも見ようかとスマホを取り出した。するとなぜかカメラが起動した状態になっており、指が画面に触れた拍子にカシャッと撮影音が鳴った。しかし…

浴衣の木

サーフィンが趣味のKさんが友人と一緒に鹿島灘に波乗りに行った夜のこと。三人で旅館の一部屋に泊まったのだが、Kさんは夜中にふと目が覚めたという。何やら甲高くて耳障りな音が聞こえる。友人二人のどちらかが歯ぎしりをしているらしい。しょうがないやつ…

底なし沼

二十年近く前のこと、Oさんがまだ小学生になる前のことだという。平日の午後、お母さんが居間で洗濯物を畳んでいると玄関の方から激しい泣き声が響いた。はっとしてそちらに向かうと、玄関から入ってすぐの廊下の床にOさんがしゃがんで泣いている。だがよく…

キャッチボール

Nさんが定年退職して少し経った頃の話だという。ある日の午後、家のすぐ近くで子供の声がした。窓からそちらを見ると、家の裏手の空き地で小学生くらいの男の子二人が楽しそうにキャッチボールをしている。Nさんはこの男の子たちがひと目で気に入ったという…

夜の職員室

中学校で教師をしている人の話。仕事が溜まっていて、他の先生はみんな先に帰ってしまった夜のこと。校舎の戸締まりを確認してから職員室に戻ると、パソコンのキーボードを打つ音がする。あれ、みんな帰ったと思ったのに。そう思いながらパソコンに向かう人…

二時に来る

マンションの自室で眠っていたEさんが真夜中にふと目を覚ました。布団に横になったまま時計に目を凝らすと、ちょうど夜の二時。寝付いてからまだ二時間ほどだ。どうして目が覚めてしまったのかはわからないが、再び眠ろうと目をつぶったところで突如大きな足…

自習スペース

学生のNさんが市立図書館に勉強をしに行った。市立図書館には四人がけの机が並ぶ他に、自習スペースとして一人用の机も複数設置されている。幸いその日は一人用の机がいくつか空いていたので、Nさんはそのうちのひとつに腰を下ろした。すると奇妙な感覚があ…

液晶テレビ

Mさんの家でブラウン管テレビから液晶テレビに買い替えた、十数年前のことだった。夜中、喉が渇いて目を覚ましたMさんが水を飲みに洗面所に行くと、リビングの方からおばあさんの声がする。普段おばあさんは夜九時くらいには寝てしまって、朝まで起きない。…

点滅

Fさんの中学1年生の娘が風邪で高熱を出した夜のこと。深夜にトイレに行きたくなって起きたFさんがふと娘の部屋の方を見ると、ドアの隙間から漏れる光が目まぐるしく点滅している。廊下は暗いから部屋の中で明かりが点いていればよく見えるのだ。あいつ、昼間…

光るゴミ

朝七時過ぎ、出勤途中のことだという。家から駅まで行く途中の道端に、その地区のゴミ収集場がある。そこを通りかかると、なにやらゴミの中がぼんやり明るい。そのあたりは建物の陰になっているから、毎朝暗いのが普通だ。それが何かの光に照らされている。…

カタン、カタン

Mさんが結婚してすぐの頃の話。当時住んでいた家は丁字路の角にあり、台所の窓が道路に面していた。朝六時頃にMさんが台所で食事を作っていると、その窓の外でカタン、カタンという音がする。毎朝決まった時刻にそこを自転車が通って、路面にある排水路の蓋…

外国語

中古車を買った人の話。鮮やかなパールオレンジに塗装されたミニバンで、状態もよく、ひと目で気に入ったのだという。だが数日乗ったあたりでおかしなことが起こり始めた。運転中にカーステレオで音楽を聞いていると、曲に入っていない英語の声が聞こえてく…

予言

Kさんの祖父は釣りが好きで、家から自転車で二十分ほどの海岸によく出かけていた。その日も釣りに出ていた祖父が帰ってきたので、当時小学生だったKさんが玄関で出迎えたのだが、どうも様子がおかしい。いつもは釣った魚を入れたクーラーボックスを満足げに…

明けました。 はてなダイアリーからはてなブログに移行しました。 よろしくお願いいたします。

護摩の炎

お盆に帰省したNさんは、実家の近くのお寺で護摩を焚くというので両親と一緒に観に行った。 本堂に設けられた護摩壇に井桁に木が積まれ、そこに火を焚きながら住職が読経する。 護摩を見るのはNさんも初めてだったので住職の後ろに座って興味深く眺めていた…