2018-01-01から1年間の記事一覧

卒倒

三月に行われた中学校の卒業式でのこと。 式の最中に二年生のFさんという女子生徒が倒れて、保健室へと運ばれていった。急に気分が悪くなったということらしい。 Fさんと同級生で親しい友人のKさんは心配したが、式を抜け出して後から付いていくわけにもいか…

強風

高校のサッカー部がグラウンドで練習していたところ、急に強い風が吹き付けてきた。 もともと朝から風の強い日だったが、ひときわ激しい突風だったので部員たちはたまらずに足を止めた。 すると風に飛ばされてきた落ち葉が、風の渦か何かのためか、サッカー…

小指

Eさんは右手の小指の感覚がほとんどない。動かそうと思えば左手の小指と同じように動かせないこともないが、感触も熱さ冷たさも、小指だけには全く感じられないのである。 少なくとも物心ついた時からずっとそうで、Eさんにとってはそれが当たり前のことだか…

走り幅跳び

茨城県I市では毎年五月に陸上競技記録会というイベントが開かれる。 市内全ての公立中学校の生徒全員がひとつの中学校に集まり、一日がかりで各種陸上競技の成績を競い合うというものだ。学校対抗の運動会に近い催しである。 ある年の記録会でのこと。 午前…

帰る夢

会社員のSさんが仕事帰りの電車で居眠りをした。 電車での居眠り自体はSさんにとって珍しいことではなかったが、その日は疲れが溜まっていたせいか妙に寝心地が悪く、変な夢を見た。 夢の中でSさんはふわふわと暗い空を飛んでいる。すると眼下に灯りが見えた…

知らない顔

Nさんは高校生のとき、交通事故による怪我で一ヶ月近く学校を休んだ。 松葉杖に頼りつつもようやく学校に通えるようになった朝、久々の登校でうっかり自分のクラスを間違えたかと思ったという。 というのも教室の中にいる顔の多くに見覚えがないのである。 …

黒いコート

土曜日に買い物に出かけたKさんは、昼過ぎに急に土砂降りになった雨にたまらず、近くのバス停の屋根の下へと駆け込んだ。 するとバス停のベンチにはひとりだけ先客がいた。黒いコートを着た初老の男が、うつむいた姿勢でベンチに座っている。 Kさんと同じよ…

夫の墓参り

Nさんという女性は夫を事故で亡くし、幼い娘と二人で暮らしていたが、そのうちに仕事で知り合ったAという男性と交際を始めた。 そのうちお互いに再婚を意識するようになり、週の半分以上はAが泊まりに来て半同棲のような生活になった。 そんな状態が二ヶ月ほ…

角錐

新潟に引越した人の話。 引越し先のアパートの近くの公園から山に通じる遊歩道があり、休日に時々そこを一時間ほど散策するようになった。 ある日曜日、この遊歩道を一人で歩いていると、行く手に見える木々の間に銀色の何かが覗いた。 何だろうと思いながら…

覗く男

Rさんは休日に奥さんと出かけた帰り、酷い渋滞に捕まった。 どうやらその日は市内のサッカースタジアムで試合があり、帰る観客の群れに巻き込まれてしまったようだった。片側二車線の幹線道路が車で埋まっていて、いつもならほんの数分で通り過ぎるようなと…

花瓶

朝、起床したKさんが水を飲むために台所に行くと、テーブルの上に陶器の花瓶が置いてあり、そこに白いユリの花が三輪ほど生けてあった。 奥さんはまだベッドにいたが、昨夜のうちに生けたのだろう。しかしそれまで奥さんが家に花を飾ったことはほとんどなか…

今週は土曜か日曜あたりに更新します。

キュキュ、ダムッ

Wさんが仕事から帰ると、リビングで奥さんが難しい顔をしていた。 どうかしたのと尋ねると、奥さんはリビングの床に置いてあるものを指した。 バレーボールだ。しかもかなり使い込まれている様子で、あちこち表面が擦り切れている。 もともとWさんの家にあっ…

猫つかい

Tさんが小学生のころ町内にあるおじいさんがいて、子どもたちの間で猫つかいとか猫じじいとか呼ばれていた。 というのもそのおじいさんには特技があった。猫を呼び寄せることができるのである。 温厚な、いつもにこやかなおじいさんだったという。 子どもた…

ノノノノノノノノ川llllllll

Fさんが小学生の夏、お父さんの実家に行った時のこと。 夜は仏間に布団を敷いて、お父さんお母さんと川の字になって寝た。 夜更けにFさんは尿意で目を覚ました。 しかしいつもと違う家がどうにも怖い。 田舎だから外も暗いし、しんと静まり返って何の音も響…

薄氷

十二月のある朝、Eさんが煙草を吸いにマンションの自室でベランダに出ると、当然のことながら空気がひどく冷えていた。 五階なので風が吹き抜けることも多いのだが、その日は風はほとんどなかった。しかしそういう日の方がかえって冷え込みが厳しいものだ。 …

窓の女

Mさんという女性が若い頃、今から三十年近く前の話だという。 当時Mさんは郵便局で事務の仕事をしていた。郵便局までは自転車で通っていたが、天気が悪い時にはバスを使うこともあった。 そのバス停から郵便局までの徒歩三分ほどの路地の途中に、古くて汚い…

イチョウの木

ある古い家で法事があり、親戚一同が集まった。 菩提寺で法要が終わり、墓参りを済ませてから親戚の家に戻ってみんなで食事をしていたときのこと。 集まっていた親戚の中には小学校低学年やもっと幼い子どもが四人ほど含まれていて、彼らは大人たちの間で飲…

リコーダー

商工会職員のNさんの話。 Nさんが独り暮らししている部屋で寝ようとしたとき、どこからか笛の音が聞こえてきた。 小学生が授業で使うようなリコーダーの音で、どうやら窓の外から聞こえるようだ。 その日Nさんはテレビを見たりネット巡回をしたりして少し夜…

Hさんの小学生の長男が風邪で熱を出した。Hさんは午前中に仕事を休んで長男を病院に連れて行くことにした。 車の助手席に長男を乗せて市内の病院に向かったが、車内でも長男は苦しそうにしている。 高熱のために息が荒く、時折激しく咳き込む。かわいそうに……

うちの

Mさんが子供の頃住んでいた町内に、家を買って引越してきた若い夫婦がいた。 周囲から見てもとても仲の良い夫婦で、特に問題があるようには思えなかったというが、引越しから一年ほどで妻が突然姿を消した。 夫の方は酷い取り乱しようで、警察に捜索願を出す…

ガッタン

Fさんが中学生のとき、同じクラスにN君という男子がいた。 N君はじっとしているのが苦手な子で、授業中でも退屈するとすぐ隣の席の生徒に話しかけたり、勝手に立ち上がって教室を出ていったりということはしょっちゅうだった。貧乏ゆすりも酷く、座っている…

新居

Fさんが結婚して二年後にお母さんが亡くなった。 お父さんはずっと以前に亡くなっており、Fはさんが就職して家を出てからはお母さんは一人で暮らしていた。 その古い家をどうしようかという話になったが、協議の結果一旦取り壊して新しく家を建て、Fさん夫婦…

覗きこむもの

中学校の先生をしていたOさんの話。 三月初旬、野球部の顧問だったOさんは部活動の後で職員室に戻り、帰り支度をしていた。 すると女子生徒が二人ほどやってきて、不安そうな顔でOさんに訴えた。 知らない人が裏庭の方から校舎を覗きこんでいるという。 裏庭…