2016-01-01から1年間の記事一覧

落描き

Hさんが高校生の頃、通学路の途中に大きな倉庫があった。 この倉庫の落描きにHさんが気が付いたのは登校時だった。 通学路から小川を挟んだ対岸にその倉庫がある。 歩きながら何となくそちらを見上げて、屋根に何か描かれているのが見えた。 洋梨のような輪…

トートバッグ

ある朝、Sさんが出勤のため駅で電車を待っていた。 しかしその朝は目覚めた時から何となく頭が重い。 どことなくだるい感じもあり、まさか風邪を引いちゃったかな、と気分まで重くなってしまっていた。 するとすぐ横から誰かが話しかけてくる。 (なあ、あん…

蕎麦幽霊

Mさんの実家の近くにある公園には、幽霊が出るという噂があるという。 通称「蕎麦幽霊」と呼ばれるその幽霊は、公園のどこかに現れて蕎麦をすするような仕草をするらしい。 体つきは男性のようなのだが、顔のあたりはいつも暗くてはっきり見えないのだという…

本棚

Mさんが仕事を終えて帰宅すると壁際にあった本棚がなぜか倒れていた。 まっすぐきれいに倒れたらしく、中身の本が辺りに散らばってもいない。 地震?いや空き巣!?と身構えたものの、特に他の家具に変わったところはない。 そもそも家具が倒れるほどの地震…

貝殻

Oさん夫妻が休日に五歳の長女を連れて海に出かけた。 海水浴のシーズンではなかったので水には入らなかったが、長女は海を間近で見るのが初めてで大はしゃぎだった。 波打ち際には貝殻が打ち上げられていて、ほとんど割れているものや欠けているものばかりで…

黒髪

Yさんという女性が仕事帰りに駅のトイレに立ち寄った。 トイレに入ると手洗い場に若い女性が一人立っていて、鏡に向かってしきりに長い黒髪を梳かしている。 その後ろをすりぬけてYさんは個室へ入った。 用を足して出てきたYさんだったが、先程の女性はまだ…

光るもの

ある人が定年退職してから東京を離れ、和歌山の田舎に古民家を買って住み始めた。 昼は見よう見まねで畑仕事をし、夜は奥さんとゆっくり晩酌をするというのどかな生活が続いた。 そんなある日の深夜のこと。 寝ていると庭で飼っている犬が激しく吠える声で目…

夜中の音

ある人が家を買った。郊外の二階建てで庭と物置と駐車場までついている。 高い買い物だったが、それまで家族で暮らしていた古いアパートに比べると住み心地が段違いにいい。 引っ越してしばらくは気持ちよく過ごしていたが、やがておかしなことが起こり始め…

お父さん

大学生のOさんが自宅のリビングでソファにもたれてのんびりしていると、急にお腹の辺りに温かいものを感じた。 ふと視線を下ろすと、何やらお腹の辺りから生ぬるい風が吹き上がってくるようだ。 と、その途端に壁際のテレビの電源がひとりでに点き、更には同…

ずっ、べたっ

Nさんが大学受験を控えて猛勉強中だった頃のこと。 夜遅くまで机に向かって、気がつけば午前二時だった。 そろそろ風呂に入って寝るか、と立ち上がったところで窓の外からおかしな音が聞こえてきた。 ずっ、べたっ。ずっ、べたっ。 サンダルを引きずりながら…

掘り出し物

主婦のNさんが自宅の庭の草刈りをしていた時のこと。 五歳になる長男がすぐ傍で遊んでおり、初めはゴムボールをついていたが、すぐに飽きたらしく土いじりに移っていた。 息子を視界の端に収めながらも無心に草を刈っていたNさんだったが、突然その息子が大…

オレンジの布

Hさんが大学生の時の話。 平日の夕方、当時付き合い始めたばかりの女の子を自分の部屋に招き入れた。 ベッドに並んで腰掛けて楽しく話していると、ふと彼女が窓の方に視線を向けて声を上げた。 「……ねえ、あれ何だろ?」 見てみると窓の向こう、道路を挟んで…

浮くもの

十五年ほど前のこと、Kさんは大学の夏休みに友人たちと海水浴場へ遊びに行った。 天気も良く風も穏やか、絶好の海水浴日和ではあったというが、もう九月に入っていたため人出は少なかった。 流石に盆を過ぎたらクラゲも多いだろうということで誰も海に入ろう…

煙草おばさん

Mさんという女性が結婚して一年後に男の子を授かった。 その子が生後半年頃の昼下がりのこと。 Mさんがベビーベッドに寝かせておいた我が子をふと見ると小さな手に何か白い箱を握っていた。 よく見ると煙草の箱である。 口に入れてしまったら大変だ。慌てて…

スリッパ

大阪で働くNさんが出張で長崎に行った。ホテルで一泊したその夜のこと。 仕事疲れのせいか、何となく寝苦しくて夜中にふと目が覚めた。 ベッドサイドの時計を見ると午前二時。 寝る前に飲んだビールのせいか、喉がカラカラに渇いていたので水を飲んでから寝…

新幹線

東京から新大阪行きの新幹線に乗った人の話。 名古屋を出て少し経った頃のことだったという。 窓際の座席で本を読みながらゆっくりしていると、伸ばした脚のすね辺りを誰かに軽く蹴っ飛ばされた。 反射的に視線を上げたものの、当然そこに見えるのは前の座席…

カエデ

Kさんの母方のおじいさんが亡くなった時の話だという。 当時埼玉に住んでいたKさんはおじいさんの暮らしていた栃木の家に向かい、葬儀の日までそこで寝泊まりすることになった。 久しぶりに訪れたおじいさんの家の小さな庭には、古いカエデの木がまだ植わっ…

重い箱

Fさんの母方のおじいさんが亡くなった。 おじいさんが一人で住んでいた家は売ることになったので、お母さんと当時学生だったFさんが数日がかりでそこの片付けをした。 家の裏庭には小さな物置があり、Fさんはお母さんに命じられてそこに入っているものを整理…

お散歩

Nさんが高校生の時の話だという。 夏休みに友人たちと五人連れ立って自転車で市内の山へ出かけた。 渓流の川原で弁当を食べ、そのまま川遊びなどして過ごした。 そのうち友人の一人が「ちょっと小便」と言って川沿いの道路を歩いて行く。確かその先に小さい…

窓拭き

学生のNさんが暮らす団地の回覧板に、あるとき「不審者が出没しています。戸締まりに気を付けて、何かあったらすぐ110番してください」との注意が書かれていた。 近所の人に話を聞いても具体的に被害があったという話は誰も知らなかったが、念のため家族一同…

長いもの

Mさんが自室でふと目を覚ますとまだ真っ暗だった。 何となく尿意を覚えたのでトイレに行ってから寝直そう、と枕元の電気スタンドのスイッチを入れようとした。 すると伸ばした右手が何か柔らかいものに触れた。 何これ、とグッと掴むと少しひんやりとして指…

東京タワー

十年ほど前の話だという。 用事で東京を訪れたある人が、少し時間ができたということでせっかくだから観光しよう、と思い立った。 今まで行ったことのない所に行こう、と考えた彼は、行き先に東京タワーを選んだ。 有名な観光地だが、彼はそれまで一度も行っ…

着メロ

Eさんが友人数人と自宅のアパートで飲み会をしていた夜のこと。 つまみが少なくなってきたのでOという友人がコンビニまで買い出しに行くことになった。 Oが出かけてから別の友人が「なんかアイスも食べたくなってきたな」と言い出し、ついでにOに買ってきて…

明けていました。今年もよろしくお願いします。