チンドン屋

Nさんの家に、母の妹である叔母さんが泊まりに来た夜のこと。
両親と叔母さんはリビングでビールを飲みながら話していて、Nさんと弟は隣の和室でテレビを観ていた。
叔母さんがトイレに行くと言ってリビングを出ていき、数分後。
イギャアアアアアアア!
物凄い悲鳴が家中に響いた。叔母さんの声だ。
皆で駆けつけると、トイレに続く廊下に叔母さんが座り込んでぽかんと口を開けている。放心状態のようだ。
呼びかけるとすぐに我に返ったが、促されてリビングに戻ると深刻な顔で言った。
オバケ出た!
叔母さんの話によると、それはトイレで用を足して出てきたときのことらしい。
手を洗って振り向くと、廊下の先にある玄関に誰かが立っているのが見えた。
派手な服を来て、大きな太鼓を抱えている。こちらに横を見せて立つその姿はどう見てもチンドン屋だ。
しかしこんな夜中に、なぜ家の中にチンドン屋が?
声をかけようとしたそのとき、チンドン屋は横を向いたまますーっと近づいてきた。
足を動かさず、廊下の上を滑るように移動してくる。
あっ、逃げなきゃと思った時にはもう目の前に来ており、ぶつかると思った瞬間にチンドン屋は叔母さんの身体をすり抜けるようにして消えたという。
悲鳴を上げたのはその直後だったらしい。

 


叔母さんには特に怪我もなかったし、酔ってありもしないものを見たんだろうということになった。
しかしその半年ほど後、父親の同僚が訪ねてきた時に家の中で同じものを見たと言い出した。
更にその翌年、母親の友人が訪ねてきたときもチンドン屋が出たと言って腰を抜かした。
Nさん一家は同じ家にずっと住んでいるのに誰もそれを見ていないので、半信半疑だという。