路地から山

Kさんが日曜に彼氏のアパートを訪ね、夕方まで一緒に過ごしてから一人で帰るその途中のこと。
最寄りの駅への近道となる路地を進んでいくと、前方の電柱の側に誰かが立っていることに気付いた。
茶色の背広を着た男の人だ。
他に人の姿もないし、これは違う道を通ったほうがいいかなとも考えた。
しかしまだ明るいし、こちらに背を向けているからまだこっちは見えていないはずだ。変質者と決まったわけでもないし、早足で通り抜ければ大丈夫だろうとそのまま歩いていった。
すると近づくにつれて前方の男の人がだんだん大きく見えてくる。
近づいたから大きく見えてきたというのではなく、実際に背が伸びている。
傍の電柱や塀に比べて明らかに先程より大きくなっている。大きくなっているというか、縦に伸びている。
思わず立ち止まったが、男はそのままするすると伸びていく。
更に奇妙なことに、男の向こう、路地に面した建物越しに夕日に照らされた山が見えた。
その方角に見える山などないはずだ。
これはまずい。なんだかわからないけどとにかくまずい。
慌てて踵を返し、彼氏の部屋まで戻り、その路地を避けるルートで駅まで送ってもらったという。