煙蛇

Yさんが職場で休憩中のこと。
いつものように裏口を出てすぐのところで煙草に火を点けた。
一口吸ったところでふと気がつくと、煙草の尖端から出る煙がなぜか上に昇らず、下の方にばかり流れていく。
煙は拡散せずに、一本の筋状にまとまったまま足元のコンクリート上をうねりながらゆっくり進んでいく。
まるで蛇だ。
気流の関係でそんなふうになるのだろうか。しかしそんな現象は初めてだった。
珍しいこともあるものだ、と地面の上を伸びていく煙の筋を視線で追っていると、その先の壁際に小さな蛙がいるのが見えた。
次の瞬間、煙は蛙を包み込んでからふわりと散った。
蛙の姿もない。煙に驚いて逃げたのならその様子が見えるはずなのに、一瞬でいなくなった。
煙の蛇に飲み込まれて一緒に消えてしまったようにしか見えなかった。
何だ今のは、とそちらに一歩踏み出した時には、手元の煙はいつも通り上に昇っていたという。